甲斐駒・赤石沢奥壁Aフランケ赤蜘蛛ルート(2015/09/20-22)メンバー/中嶋、小林
アルデに入って初めて知った「赤蜘蛛ルート」。名前からして恐そうだし、当時のアルデの精鋭たちが行っていたので、ただただ難しそうだなーと思った。
昨年、ついに私も挑戦しようと計画を立てたが、台風の為断念。今年こそは!と再度計画した。
赤蜘蛛に取り付くには、北沢峠から甲斐駒頂上経由で行く方法と、黒戸尾根から行く方法がある。
2年半前の3月、森田さんと黒戸尾根を登ってその長さと急登から「もう二度と登りたくない」と思ったことから、北沢峠から行く手段を考えるが、車でないと戸台まで入るのがかなり大変。
結局、黒戸尾根から行くことに。夜行で行くとか、朝イチで出てその日のうちにベースとする七丈のテント場まで登るとかも考えたが、せっかくの5連休。
急ぐこともないので、初日はのんびり出て、竹宇神社のキャンプ場に一泊。翌日日曜七丈まで、月曜に登攀、火曜に下山、というゆったりコースにした。
0日目:9/19(土)
さすがシルバーウィーク。指定席は取れなかったので、早めに行って11時名古屋発のしなのの自由席を狙う。
10:20頃、ホームに着くと、臨時のしなのがあるようで電車が入ってきた。
これでも座れそうだが、11時の方が塩尻での乗り継ぎが良さそうなので、一本見送ることに。
11時の電車の自由席の列に並んでいると、「11時のは大阪発なので席の保証はありません」と駅員さんに言われる。しなのは全て名古屋始発かと思っていた!
急いで弁当を買い、臨時のしなので席をゲット!危ないところだった。
塩尻から普通電車に乗り換えて、大阪を出てかれこれ5時間。14時にようやく小淵沢に到着。
ここからタクシーで竹宇神社のキャンプ場まで行く。
その前に駅前でコンビニを探すが、歩くと遠そうなので、タクシーで寄ってもらうことにした。途中のセブンで明日の昼食やらビールやら買い込み、料金4150円で竹宇神社の駐車場に到着。
前回、森田さんと来たときはだーれも居なかったが、それは3月だったからか、今回は満車に近い。
駐車場から5分ほど歩いてキャンプ場へ。料金は1人1000円。
にも関わらず、ごみは持ち帰りというのは納得がいかないが、仕方ない。家族連れのキャンパーが多かった。
キャンプ場にある大きな岩でボルダ―して遊んで(クライマーは必ずやっちゃいますな…)、ビール飲んで、夕食食べて、暗くなった頃テントの中へ。
今週は仕事が忙しくあまり寝てない。暑くも無く寒くも無くちょうどいい陽気。
遠くから聞こえるキャンパーのギターの音色と川の音が心地よく、テントの出口を開けてウトウト。久しぶりによく眠れた。
1日目:9/20(日)
4時起床。5:10、キャンプ場を出発。神社の裏に着替えとゴミをデポし、長くて急登で有名な黒戸尾根へ。
長袖2枚着ていたが、暑くて早速一枚脱いだ。雪でない分、前回より少しは楽かと淡い期待を抱いていたが、重い登攀具が肩にずっしりくる。
様々なきのこが生える秋の山道をのそのそ登る。七丈小屋手前のはしごの連続では、重荷のせいか息が切れ切れ。
11:45、七丈小屋のテント場に到着。まだテントは少ない。混むことを予想して、なるべく詰めてテントを立てた。
面倒になる前に明日の取り付きの確認に行く。頂上に向かって45分ほど登ると、石の鳥居の残骸がある少し開けた8合目に出る。
そこから数分でテントが数張り張れそうな台地へ。さらにそこから数分で左手に一般道から分ける踏み跡があり、すぐ岩小屋が見つかった。
登りに行っているのか、ザックがデポしてあった。邪魔にならないよう端っこに明日の登攀具をデポさせてもらう。
「8合目岩小屋」
取り付きまではここからたっぷり1時間下る。そこまで偵察に行くのはイヤなので、涼さんからもらった取り付きまでのルート図を片手に、少し様子を見に行く。
最初のフィックスロープがある大きな岩のところまで行って、岩小屋に戻る。かなり道は悪そうだ。明日はある程度明るくなってから下った方が良さそう。
途中、クライマーらしきパーティ2組ほどとすれ違う。彼らは七丈小屋のテント場より上でテントを張るようなので、彼らの方が早く取り付くことになるだろう。
待たされるのは嫌だが、上手い人に後ろにピタッと付かれる方がストレス。
取り付きまでのアプローチも悪そうだし、無理して早く取り付く必要も無いだろう。
4時過ぎに出て、白み始めた5時過ぎに取り付きへの下りに入ればいいだろうと決める。
テント場に戻り、空のザックを背負って、テントの受付と水・ビールを調達。(小屋からテント場までは5-10分掛かります。)テントも次第に増えてきた。
下界は晴れのようだが、山は雲の中。あいにく眺望は良くないが、寒くないので外で宴会。つい飲み過ぎてしまった。
2日目:9/21(月)
N嶋さんのイビキがうるさくて、ほとんど眠れず3時を迎える。
4時テント発。昨日デポした荷物を回収して、うっすら明るくなり始めた5時5分に八合目の岩小屋を出発。
涼さんの完璧なルート図があったので迷わず済んだが、急な上にかなり悪い。
途中、フィックスロープを頼りに大岩を下ったり、木の枝や根を掴んで下ったり、朝から大仕事。
1時間たっぷり下って大岩壁を見ながら笹の斜面を回り込んだら、突如取り付きが現れた(途中、笹でこけた。N嶋さんは気付いてもくれなかった)。
ちょうど前のパーティのラストが登ろうとしているところだった。
おじさんがもう一人居たが、この方は見送りに来ただけらしい。ラストの女性を応援したら、帰ってしまった。(おそらくアルデの森田さん的な存在の方なのでしょう。)
「取り付きまで」
さて、ゆっくり準備をして6:45、いざスタート!カムに慣れてない私は6P目のカムアブミを避けたくて、奇数をリードさせてもらうことに。
ということで、初っ端の1P 目(A1)をリード。ここは1ピンから2ピン目までが遠いと聞いていたので、中嶋さんお手製のチョンボ棒(ハンガー)を用意していた。
パッと見、遠そうでないので、届くんじゃなーいと、1ピン目にアブミをかけて気楽に出発したが、まだ慣れない一発目。完全に壁が落ちた足ブラアブミで早速クルクル回転し始める。
あれれ、こんなはずでは?早くも中嶋さんに「リード代わるぞ、オラ」と言われる(実際「オラ」は言われていないが、そのぐらいのガラの悪さ)。
「もうちょっと頑張ります」と、足ブラの中、何とかアブミの最上段に乗りフィフィ掛け、チョンボ棒で2ピン目にアブミを掛けた。ふー、初っ端からやれやれだ。
ついでに次のピンもチョンボ棒使ってもうた(鬼監督に怒られた)。
後は単純なアブミの掛け代えだが、久しぶりのアブミに時間掛かってしまった。さらに最後のテラスへの乗っ越し。
アブミの最後は完全に乗っ越してしまうと、アブミが回収出来なくなるということがよくある。
登り切る前に取るぞ、とテラスに足を乗っけたら、ぶら下げていたアブミに足が引っかかり、落っこちそうになる。
おかげでアブミを取る余裕は無くなり、最後のアブミは残置。セカンドに回収してもらうことに。
遠かった2ピン目は、セカンドが登りやすいかと長いシュリンゲを掛けたが、それが逆効果だったらしい。中嶋さんも初っ端、少し手間取っていた。
「1P目終了点より」
1P目のテラスから左の凹角の上に、前のパーティがビレイしているのが見える。
トポでは2P目は40mとあるので、少し短い気もするが、リードの中嶋さんも同じところで切った。2P目は凹角のクラック(V級)。
と言っても、足ジャムを数か所するくらいで、ホールドはあるので私でも快適に登れた(久しぶりの足ジャムはやっぱり痛かったけど)。
「2P目出だし」
3P目(IV級、A1)、小林リード。凹角のクラックの続きから始まる。上手い人はフリーで登るんだろう。
私もフリーでいけるかな?とも思ったが、やるだけ無駄な気もするので、カムアブミした。
途中、数か所フリーも交えながら、クラックから左のフェースに出て、またアブミ。傾斜が緩いので最上段にも立ちこみやすいが、またしても時間掛かってしまった。
また、ヌンチャクを全部持って行かなかったので、最後はかなり間引きながら登る羽目になった。
終了点はややハンギングビレー。普通なら腰がちぎれそうに痛くなるものだが、さすがアークテリクスの高級ハーネス!大枚はたいて買って良かったとつくづく思った。
「3P目終了点より」
4P目(IV級、A1)、中嶋さんリード。正面のハングを左から越え、草付きの段々を登りテラスへ。
ルート中で一番広いテラスで、少し休憩。上に本ルートの核心、クラックをアブミで登る前パーティが見えた。
「4P目、ハング越え」
5P目(IV級、A1)、小林リード。テラスのほぼ中央にあるかぶり気味の凹角を立ち木から登り、スラブから左に回り込む。
そこから易しいフェースを登り、クラックの下部へ。ちょうど前パーティが登っている。
垂壁にクラックがスーっと伸び、なかなかの迫力。クラック好きなら興奮する光景だろう。
前のパーティは3人。リードと3番目の女性は空身、セカンドの男性が荷物を担いでいる。アブミは身の重さがもろに堪える。セカンドが一番しんどいだろう…。
6P目(A1)、中嶋さんリード。次の終了点は1パーティしか居られない。
少し待って、3番目の女性が半分登った頃、中嶋さんが登り始める。霧がますます濃くなり、寒くなってきた。
最初の半分はリングボルトがあるが、後半クラックに入ってからは支点が乏しくなるので、カムを使う。
中嶋さんはカムを間引きながら登ったとのこと。私の背ではほとんど最上段に乗り込まないと次のカムに届かなかった。
途中、ひとつ残置のカムがあった。途中でそんなに休憩したつもりはないが、やはりリズムが悪いらしく、また時間が掛かってしまった。
ハンギングビレイの中嶋さんに申し訳ない。ようやく終了点に着いたのも束の間。休む間もなく続いて次のピッチをリードする。これがつるべの辛いとこ…。
「6P目」
7P目(IV級、A1)、小林リード。まっすぐクラックを辿ると「スーパー赤蜘蛛」。
我々は普通の「赤蜘蛛」なので、右手の恐竜カンテを乗越し、フェースを右上。ルート中、最も高度感があるところだが、ガスってるし、必死すぎて高度感もこうもない。
ビレイする中嶋さんを越えて2ピン目が遠い。(つーか、このルートは全体的にピンが遠い。私の身長では、最上段に乗らないとほとんど届かない。)
「あれれ、遠いー、届かないー」なんて言ってたら、早くも鬼監督の雷が落ちた。
傾斜は緩いので立ちこみやすいはずだが、フィフィが少し短すぎて、それで突っ張ってしまう。
前から気になっていたのに、ちゃんと調整してこなかったことが心底悔やまれる。なんてここで言っても仕方ない。今あるもので何としてでも登るしかない。
PASをフィフィ代わりに使ったりして何とかリングボルトに掛かっている細いシュリンゲに手が届いた。必死でヌンチャクを掛ける。
ここからはしばらくはまともなピン間隔になり、最上段にうまく立ち込めれば届く感じ。カンテを乗っ越して右のフェースに出てからもアブミが続く。
途中、岩の割れ目に一本だけニョキっと生えている白い枯れ木に乗って登る箇所があるが、ザックが引っかかってしまい、なかなか抜けられない。
グイグイしていたら木がミシミシいって怖かった。その後も一ヵ所遠いところがあり苦労する。最後のアブミもまた取り損ねて、右の木にスリング掛けてそこにアブミして何とか回収した。
セカンドに回収してもらえばいい話なのだが、1ピッチ目でも同じことをしているし、鬼監督に怒られる材料を増やしたくなくて必死で取った。(思えば、時間が掛かる方が怒られる原因になるのだが…。)
これまたたっぷり時間を掛けて、終了点に到着。ハンギングビレイの中嶋さん、本当にごめんなさい。後続パーティが居なくて本当に良かった。
「7P目終了点より」
8P目(IV級、A1)、中嶋さんリード。終了点を左に回り込み快適な岩からフェースに出て、またアブミ。これが実質最終ピッチ。
9P目(U〜V級)、小林リード。右手を木登りして一段上がる。正面の岩は苔だらけで支点もない。
右手をまた木登り。苔とブッシュ混じりの岩場と木登りを交えてほぼまっすぐ登っていく。「ロープ半分」のコールのところで、木を支点にピッチを切る。
踏み跡はあるが、支点がまるでないのでルートが合ってるかちょっと心配。登ってきた中嶋さんは「間違えてるんじゃないか?」と言う。
10P目(U〜V級)、中嶋さんリード。疑心暗鬼のまま「悪い」と言いながら、正面の岩を登っていくが、すぐに踏み跡を発見したようであとはスルスルロープが伸び、25m程で「ビレイ解除」の声。
登り終えると数m上に終了点の目印となる岩小屋が見えた。中嶋さんは「右手に道があって、そっちが正しいルートだ」と言っていたが、私は今回のルートで間違っていなかったと今でも信じている。
16時半過ぎ、登攀終了。岩小屋でギアの整理と靴を履きかえ、ちょこっと休憩。思えば3時の朝食以降、パンひとつと飴しか食べてない。
少し食べて、朝来た道を戻る。この終了点の岩小屋からしばらく登ると、朝来た8合目の岩場からのアプローチの上から3割くらいのところに合流する。
合流箇所で道を間違え、また取り付きへと向かってしまったが、すぐに見覚えのある道に気付き、事なきを得た。
あとは朝とは逆にフィックス頼りに大岩を登り、17時半、8合目の岩小屋に到着。
岩小屋で泊まっていた若い3人組に「昨日、荷物をデポしていた方ですよね?」と声を掛けられる。昨日の岩小屋に置いてあったザックの主らしい。
聞くと、今日の赤蜘蛛は4パーティ取り付いていて、私たちがラストらしい。最初の2パーティには全く会わなかった。うまくばらけて渋滞がなかったのはラッキーだった。
彼らは今日は北壁を登り、明日、赤蜘蛛を登るとのこと。20分ほど奥壁側に下ると水場があるらしい。
北壁とはどこだが知らないが、何日もこの岩小屋で夜を明かし、続けて何本も登る彼らは相当なクライマーだろう。
赤蜘蛛一本で疲れ果てた私には、途方も無い話に聞こえた。(今思えば「北壁」でなくて「奥壁」と言っていたのかも?)
さあ、ここまで来れば何も怖いものはなし!一般道を下る。途中の台地で前パーティの応援団のおじさんとテント2張りを発見した。
ちょうど暗くなってきた18時、7合目のテント場に到着!水とビールを調達に小屋まで行く。早くもテント場は静か。
ひっそり完登祝いをする。明日は下るだけ。目覚ましも付けずに就寝。夜、雨が降った。
3日目:9/22(火)
ウダウダして6時前にようやく起き出す。テントはすでにほとんど無くなっていた。「美味しくないね」と言いながらα米チキンライスの朝食。
しょっぱいけどケチャップ味が効いてない。お湯入れる時に混ぜても結局待っている間に調味料が沈んで、味にムラが出来てしまう。(尾西食品さん、是非改良して下さい。)
日が出てきたので、テントを乾かしながらのんびり後片付け。テントはみるみる乾いた!お日様って偉大!
8時に出発。また長ーい黒戸尾根を下らなければならない。今回は食料は軽量化に励み、荷物のほとんどが登攀具なので重さは初日とほとんど変わらない。
それでも少しは楽かと淡い期待をしたが、登りと同様、全くその期待は外れ、ほとんどイヤになりかけた12時半頃、渓流で遊ぶ観光客でいっぱいの竹宇神社に着いた。
あとは温泉に入ってビール片手に帰るだけ!と言いたいとこだが、車のない我々。神社から30分以上歩いて、ようやく「尾白の湯」に到着。
着くころには完全に腰が曲がって、「おばあちゃん」になってしまったが、途中、黄金色に輝く田んぼの稲穂がとてもきれいだった。
八ヶ岳を眺める広いお風呂で疲れた体をほぐす。早速筋肉痛が始まって体中が痛い。風呂の後はタクシーを呼んで小淵沢の駅へ。
あとは特急、新幹線とビールを飲みながら帰りましたとさ。…となるはずだったが、恐るべし、シルバーウィーク!塩尻からの特急しなのはすでに立ち客が出るほど。
今まで指定は取れなくても自由席で座れていたが、こんなの初めてだ。山の人もいっぱい。デッキに立って、名古屋まで2時間。
空気も悪いし、途中で降りなきゃ持たないかも、と思うほどしんどかった。でも、昨日ハンギングビレイで2時間近く私をビレイした中嶋さんを思って、何とか耐えた。
感想:憧れの赤蜘蛛…のはずだったのに、準備が足りな過ぎた。お盆のアイガーから帰ってぽわーんとしており、先週ようやく慌てて駒形でアブミしただけ。
アブミは何かと時間が掛かる。スピードアップには慣れが重要。昨年行った屏風のピン間隔が思いがけず近かったこともあり、本チャンを完全なめてた。登った当日はただ「疲れた」しか思えなかった。
翌日はきちんと準備してこなかった自分が情けなかった。そして今になると改めていいルートだったと思える。
長くて辛い黒戸尾根をザックいっぱいのガチャ類を持って登り、そして悪いアプローチを下ると突然現れる迫力の大岩壁。
あの岩壁を探し出し、ルートを築いた先人にはただただ敬服するだけ。次はビシッと登りたいと思う。(今は誘われても断りますが。)
装備:ダブルロープ2本、アブミ、フィフィ、ヌンチャク16本、カム0.3〜2番2セットと3番ひとつ(2, 3番は要らなかった)、
ナッツ(使わなかった、というか忘れていたらしい)、ナッツキー、
涼さんの完璧アプローチ図、チョンボ棒(最後2点も必携!「赤蜘蛛セット」として今度行く人に貸し出します!)
文章/小林