八ヶ岳東面・権現東稜(2016319日〜21日)

メンバー/中嶋・小林

 

昨年同時期に初めての八ヶ岳東面として旭岳東稜に行き、ゲレンデ化された西面とは違う東面のアルパインらしさが気に入った。

今シーズンは東面でも一番難しいとされる権現東稜を狙った。核心はバットレスと言われる岩場の2ピッチ。

今シーズンはつるべで登っても、うまい具合に核心外れたりして渾身のクライミングが出来ていないため、今回は核心のリードを志願。

なので、バットレス部分のトポはよく読んでいたが。最初にネタ晴らしをしてしまうと、バットレスに至る前に敗退という情けない結果に終わった。

が、反省点や学んだことを記しておくために、恥を忍んで記録を書きたいと思います。敗退の記録、始まり始まり〜。

 

1日目:3/19()

6時の始発の新幹線で新大阪を出発。名古屋でしなのに乗り換え。3連休ということで自由席も立ち客が出るほどの混雑。

指定を取っておいて良かった。塩尻であずさに乗り換え。乗り換え時間は3分のみなので、毎回ドキドキする。

小淵沢でワンマン電車の小海線に乗り換え、清里まで。混雑が心配なので、帰りの特急の指定を取る。

相変わらず閑散とした駅前だが、かろうじて空いていた土産物屋でビールを買い、タクシーで美し森まで(約1,000円)。

荷物をデポし、11時、地獄谷の出合小屋に向けて歩き始める。

曇り/雨の予報だったが、幸い雨は止んでいて暖かい。昨年は踏み抜き地獄で苦しめられた林道も今年は全く雪がなく、快適に歩を進める。

林道が終わって、堰堤を過ぎたくらいからようやく雪が現れた。

昨年は川が増水、雪を踏み抜いてワカサギ釣り事件が発生(昨年の記録を参照ください)、

小屋まで渡渉に泣かされ続けたが、今年はきちんと川が出ているし、増水もしてないので、順調に渡渉し、昨年の半分の2時間半で出合小屋に着いた。

 

「初日の核心は渡渉」

 

小屋には誰もいない。テントを持ってきていたが、空いているならもちろん小屋を使わせてもらう。

奥の方をマットで陣取りして、面倒になる前に取付きの偵察に。

途中、トポを小屋に置いてきてしまったことに気付くが、このエリアも2度目(中嶋さんは3度目)なので、

何となく知った気になって、まあいっか、ということで、そのまま偵察に向かう(ミス@→2度目だからと言って過信せず、トポを見ながら偵察すべきだった)。

しばらく川沿いを進むと、旭岳と権現岳の分岐の標識が出てくる。右が昨年行った旭岳東稜および下山路のツルネ東稜に繋がる道。

今回は左に進む。トレースは無かった。トポによるとすぐに右に右俣を分ける、とあったはず。素直にまっすぐ沢沿いを進む。

小屋から20分ほど進んだところだろうか、沢が右に続いている。正面は岩やら木やらであまりすっきりしない。

ここにケルンと白いテープがあったこともあり、右方向に進んでいくと、奥の方に両側に岩が切り立った箇所が見えた。

これが取り付きへの目印となるゴルジュだと思い込んでしまった

(ミスA→実際のゴルジュはもっと狭かった。数名で幅いっぱいになるくらいの狭さ。事前に調べた画像をきちんと覚えておくか、ポイントなる目印の画像は印刷して持ってくるべきだった)。

 

「偽ゴルジュ@

 

この「ゴルジュ」を超えると正面に凍った滝が出現。滝の脇の岩場を超えられそうだが、ゴルジュを超えてすぐ右の浅いルンゼを上がると東稜に乗るとあったはず。

右のルンゼを上がって滝の向こうを覗いてみるが、その先にルンゼらしき斜面は見えないので、ここをそのまま上がるんだろうと決めつけて偵察を終了し、小屋に帰る。

小屋に帰り、ビールで乾杯し、明日に備えて早めの夕食。

一通り食べて、このまま今日は貸し切りかな、と焼酎のお湯割りで寛いでいると、17時頃、5人組が到着。

なんと、よく存じ上げているK山岳会のIさんパーティだった。本当に山の世界は狭い

聞くと、K山岳会組も権現東稜とのこと。「ゴルジュ辺りまで、偵察に行ってきました」なんて言ってしまう。我々は5時発の予定。K山岳会は5時半に出るということで20時頃就寝。

 

2日目:3/20()

暖かい夜で良く眠れた。3時半に起き、5時、一足先に出発する。昨日のトレースを辿る。

「ゴルジュ」付近で明るくなってきた。偵察した「ゴルジュ」先の右の斜面を登る。ふくらはぎくらいまでのラッセルが続く(わかんは小屋に置いてきた)。

6時半頃、尾根に上がり、視界が開けてところで確認すると、目指すバットレスは隣の尾根。完全に間違えている

Iさんたちが付いてきてしまっていては大変と急いで下る。斜面を下った辺り、Iさんたちに出会う。Iさんたちはゴルジュ先の滝を超えた辺りに居た。

この尾根は間違っていることを伝える。中嶋さんはIさんを待つことにし、私は先に「ゴルジュ」を戻り、ケルンのあったところまで戻る。

出合小屋から来て、このケルンを右に行ってしまったが、おそらくこれは右俣だろう。

正しくは左俣を行かなければならないので、このケルンを右に行かず、まっすぐ進んでいくが、岩やら木やらですっきりしない沢が続き、ゴルジュは見当たらないし、これが合っているのか自信が持てない。

ケルンから5~10分ほど行った頃、笛の音が聞こえた。私を呼んでいるのかと、笛を鳴らして返すが、笛は鳴りやまない。

Iさんたちのパーティに何かあったのかとも思う。再度笛を鳴らすが、まだ鳴りやまない

よく分からないが、戻ってこいの合図かと思って戻っていくと、中嶋さんがケルンの分岐のところで「戻ってこい」と叫んでいた。

聞くと、Iさんたちを待っていたが、Iさんたちは「ゴルジュ」先の凍った滝を超えて、進んでいったという。おそらく正しいルートを見つけたのだろうと言う。

私も「まっすぐ方面にはゴルジュらしきものは出てこなかった」と報告し(ミスB→実際は戻った沢が正しかった)、仕切り直しの休憩をして7時半、Iさんたちの後を追う。

途中、岩で狭まった箇所があり、これが本当のゴルジュだと思い込む(ミスC→実際のゴルジュはもっと狭かった)。

 

「偽ゴルジュA

 

凍った箇所を何か所か超えると、正面には岩がそそり立ち、行き止まり。右斜面に続くトレースを辿る。尾根に出てもトレースは膝までの深さ。

Iさんたちもワカンは付けていない。5人組とは言え、歩の速さに感心する。

視界が開けた先にバットレスが見えたので、正しい尾根に居ると思った(ミスD→後でトポの写真と見比べたところ、実際とは見える角度が違った)。

 

「バットレス、登るのは左のリッジ」

 

尾根に出て、1時間強だろうか、ようやくIさんたちに追い付く。なかなか急な樹林帯だ。ラッセルに感謝する。

一度傾斜が緩くなったところで、Iさんたちは休憩するという。

先に行ってトレース付けしようかと思うが、ここを超えるといよいよ岩場のはずなので、追い越して先に岩に取付いては申し訳ないと一緒に休憩し、岩場までのひと登りに取り掛かる。が、やけに悪い。

草付き岩場で早速ロープを出す。Iさんが張ってくれたロープを使わせてもらう。

岩場までが急な雪壁のはずだが、雪が少ないから草付きが露出してしまっているのだと思う(ミスE→雪が少ないからトポ通りではないと思い込んでしまった)。

ここを越えてもまた悪い。正面の草付きは超えられないので、右にトラバースし、急な斜面を登るが、雪は締まってないし、かなりの斜度で木を掴みながら何とか登る(ミスF→滑ったら大事故だった。ロープを出すべきだった)。

視界が開けるところまで登ってみると、バットレスは見えるが、大分右寄りに出てしまった。

左のリッジを登るはずなのに。ここでようやく間違っているのではと思い始める。

それでもまだ左に回り込めると信じて、しばらく登るがまた正面に容易に超えられない草付き岩場が出てきて、いよいよおかしいと思う。左側の隣の隣の尾根が正しい尾根だろう。

 

「右に出てしまった」

 

Iさんたちはロープを出して左にトラバースしてみると言う。

この時点で11時半、万が一うまくトラバース出来て正しい尾根に上がれたとしても、バットレスを登ってツルネ東稜を下るのは時間が掛かりすぎる。ビバーク必至だ。

撤退するには少し早いが、我々はここで同行下降しようかと話すが、せっかくロープ張ってもらったからと一度トラバースして先を見てみることにする。このトラバースはかなり悪かった。

トラバースして先を見るが、やはり正しい尾根までトラバースを続けるのは不可能と判断する。

または、ここから雪の斜面がうまく稜線まで繋がっていれば、稜線経由で帰れるかもしれない。

我々は稜線経由が無理なら、同行ルート下降することにする。

中嶋さんが斜面を登って偵察に行ってくれたところ、雪の斜面は右が完全に切れており、正面には中嶋さんいわく「佐藤祐介でも登れない岩壁」がそそり立っているということで、ここで撤退を決定する。

Iさんたちも同じく下るということ。12時半、ここから2組(計7人)が協力して撤退を開始する。

最後に休憩したポイントまでは急な斜面が続くので、懸垂下降を繰り返す。

ロープは我々が1本、K山岳会が3本ということで、計4本。

ロープ1本で同時懸垂して、先に降りた人がまた次のロープをセット、というのを繰り返す。(今回の下降で学んだテクニックを文末にまとめているので参考ください。)

が、ここで中嶋さんが「ビレイ器が無い」と言い始める。

ということで、全て半マストで下降したらしいが、予定通りバットレスに登ることになっていたら、私は半マストでビレイされていたのだろうか

私は先に下降してロープセットする係になったが、樹林帯の下降なので、毎回ロープが木に絡まり、なかなか面倒だった。

7Pほど懸垂を繰り返し、ようやく傾斜が落ち着き、あとは歩いて下った。

下りながら、ひょっとしたら左の尾根に繋がっていたりするのかと注意していたが、やはりそんなことはない。

ということは尾根に乗った時点で間違えていたのだ。「偽ゴルジュ」を戻り、私が朝ひとりで引き返し見に行った正面の沢を、今度は中嶋さんたちが見に行った。

私はもっと下に分岐がないかと出合小屋方面に下るが、結局見当たらないまま、「旭岳・権現岳」の分岐に戻ってしまった。

16時過ぎ、小屋に戻ると、テントが数張り、小屋も4人増えていた。下向きのアイゼンなしのトレースが付いていたので、おそらく下見に行った人たちがいるはず。

聞き取り調査をすると、小屋の二人が明日権現に行くということ。やはり正しい取付きはケルンを右に行かず、正面のすっきりしない沢で、そこを小一時間進むとゴルジュに出るらしい。

遅れて戻った中嶋さんも正しいゴルジュまで確認してきたとのことだった。お隣さんは3時半に出るというので、静かに反省会。早めに就寝した。

 

「正しいゴルジュ。かなり狭かった」

 

3日目:3/21()

5時過ぎに起床。のんびり朝食。K山岳会組と共に7時過ぎに小屋を出る。

初日は楽だった渡渉だが、朝は岩に薄氷が張っており、ピョンピョン岩をジャンプできない。

完全に川に使っている岩の方が凍ってなくて安全なので、そういうのを選んで無事ノーミスでクリアした。

8時半、駐車場に戻る。車で来たK山岳会は、清里の隣駅・甲斐大泉駅近くの「パノラマの湯」に入っていくという。そして、我々もそこまで乗っけてくれるとのこと!

昨日は我々の間違った偵察のせいで、ルートを間違えさせたというのに、本当に有難い!!

パノラマの湯は10時からで少し時間があるので、清泉寮に寄っていく。小学生のころ、2時間以上並んで食べた思い出のソフトクリーム。

寒いけどやっぱり食べたい。20数年(??)ぶりのソフトクリームは、寒くても、敗退しても、やっぱり美味しかった。

その後、パノラマの湯でK山岳会と別れ、我々はいつものルートで、今回の反省を川柳にしながら、大阪に帰った。

 

今回の格言:

「岩場よりアプローチが核心と心得よ」(小林)

アルパインの核心は岩場より取付きだったりします。

「ビレイ器は無くてもマストは半マスト」(中嶋)

ビレイ器が無くても懸垂できるよう日頃から練習しておくべし。

 

感想・反省点:

撤退する時間が早かったこともあり、明るいうちに全員無事下山できたことは良かったが、一歩間違えば大事故になりうる箇所もあった。

昨年の旭岳東稜がスムーズで、また、最近の山行も成功続きだったので、全てを甘く見ていた。もう一度謙虚に山に向き合いたいと思う。

 

学んだこと:

1     樹林帯の下降では、50m一本(つまりロープを連結せず)で、短く切りながら降りた方がいい

(長いとロープは絡まるし、結局50mいっぱいは下りられないし、もし下りられたとしても、まっすぐなルートでないと変なとこに出てしまうので)。

2     大人数では同時懸垂が有効。お互いにテンション掛からないように、支点の木にロープの中央を3回巻きつけた後、ロープに結び付けて固定する

(結び目はビナでほどけないようバックアップ)。末端はスリーフィッシャーマンズノットですっぽ抜け防止。ラストは木に巻き付けた結び目を解いてから下降し、ロープを回収する。

途中の木などの障害物は両側のロープでまたがないようにする(ラストは両側2本で下降するため)。

3     ロープを毎回まとめるのは手間なので、最初に降りる人に空いているロープをつないで引きずりながら下降すると、そのままロープを次の支点に運ぶことが出来る。

 

文章/小林