2016/12/29

八ヶ岳・大同心雲稜ルート

吉田、小林

 

大同心雲稜ルート、八ツで「冬壁」と言えるのはこのルートだけだと思っている。冬壁をめざす上で登竜門とされるルートに先輩の吉田さんと挑戦することにした。

入山日、赤岳鉱泉に向かう途中で見えた大同心は真っ白。

雪の無い真っ黒な大同心をうっすら期待していたが甘かった。が、登攀意欲は衰えない!「白くなくては冬壁ではない!」とテンションを上げる。

出発前、体調が悪かったので(心配でインフルエンザの検査に行ってしまったほど)、入山後の雪訓はパスさせてもらって、テントで寝ていた。

「赤岳鉱泉付近から見る白い大同心」

 

1229日、4時起床、5:15出発。前日、大事を取ったおかげで万全とはいかないものの体調はかなり戻った。

硫黄に向かう登山道から「大同心沢」の標識を目印にテープを越えて沢に入る。

裏同心からの下山者が通ったのか、前日偵察に行った際は付いていなかったトレースが付いていた。(トレースなくても夏道の形跡があるので分かりやすい。)

沢を左に渡って、大同心稜に上がり、急な尾根を大同心基部に向けて登って行く。夜も明けてきて、大同心が露わになる。

昨日見たほど白くはないが、雪は落ち切っていない。覚悟を決めて登攀準備。

左下方面に基部をへつっていき、壁のちょうど真ん中あたり、ハーケンとリング(だったと思う)、凍ったシュリンゲの下がる取付きに到着。1P目は吉田さんにリードをお願いした。

「朝の大同心」

 

7:45、いよいよクライムオン!というところで、一面ガスが掛かり、風も強まる

出だしがいきなりイヤらしく、吉田さんは「足利いてる?(=ちゃんと乗れてる?)」と聞いてくるので、「利いてません」と答えると、案の定落ちた

吉田さんは全くめげずに登り返していった。一段上がったところにシュリンゲあり。そこからもう一段上がるとアブミが始まり小さなテラスまで。

その間1時間強か、ガスって全く日は当たらないし、風は強いし、全身に霜が付く

ロープも風に煽られて、弛まないようにしっかりと握りしめていなくてはならない。

寒さで感覚の無くなる指先を叩きつつ、「これが冬壁かー、なるほどなるほどなんて思っていたら、ビレイ解除のコール。いよいよ私の番!頑張るぞ!

難しそうだった出だしはビレイしている間、「ここに足置いて手はあそこに」なんてシュミレーションしてたから、すんなり抜けれた。

一段上がった後、吉田さんは右から回り込んだが、ロープが振られるのが怖くて、まっすぐ登ることに。

下から見るより立ってて、足の置き場もない。

アックスも利いてる気がしなかったが、セカンドだからと「えいや!」で登ったら、やっぱりすっぽ抜けてぷらーんとなる。うーむ、ここでこれとは嫌な予感

吉田さんは私がなかなか登ってこないもんで行動食を食べていたようだが、途中落としておかきやらレーズンやらが宙に舞いながら私の後ろを通過していった

最後のアブミからフリーの切り替えが怖かったが、なんとか吉田さんの元へ。

セカンドなのに吉田さん以上に時間かかった。正直リード出来るか不安だったが、「すぐ上に見える別の終了点で切りますわ、おほほ」なんて冗談を、半分本心で言いつつ、2P目のリードの取りかかる。

右に行くと行き詰るような記録を見ていたので、左を心がけるが、一段上がったところにあった別の終了点から左はベルグラの張った岩壁で、とても登れそうになく見えた。

諦めて、さらに一段上がる。ここから左に渡ろうとするが途中岩が出っ張っていて落っこちそう。

ルートもそちらで合っているか分からなくて、行っては戻りを繰り返し、挙句の果てに途中で固まる、と左上の凹角に氷の棒がぶら下がっているのが見えた。おそらくシュリンゲだ!

心を決めてトラバース完了。シュリンゲの上にはボルトが続いていたので、いよいよアブミに取り掛かる。

が、途中、ハーケンに氷が詰まっていたり、ボルトが岩に氷で張り付いていたり、いちいち手間が掛かる。

「これが冬壁かー、なるほどなるほど」なんて思いつつ、小さいテラスまで上がると途端に支点がない。

下から見ていた時は階段状に見えたけど、実際はかなり立っていて、支点がないと怖くて登れない。またもや逡巡するが、やっぱり登れない。

情けないが、吉田さんにどうにかしてもらおう。

小さいピナクルにシュリンゲ掛けて、ボルトが2つあったところまで数メートル降ろしてもらって、そこで切った。たった20mほど登るのに1時間半ほど掛かった

登ってきた吉田さんにトップ交代。

迷いながらも私が悩んだ箇所を登って行った。25m弱登って、「ここが3P目の終了点だ」と言って、ピッチを切った。

ってことは、私はどこで切るのが正解だったのか?ルートを間違えたのか?なんて考えながら、これまたたっぷり時間を掛けて、何とか登った。

そして、ここで「もうリードは無理です」宣言。続く4ピッチ目も吉田さんにリードしてもらう。これまた立っていて難しい

思えば「壁」なんだから、どこもかしこも立っているのは当たり前なのだが、そんな自分に突っ込みを入れる余裕はもはや無かった。

途中、吉田さんはハーケンをいくつか見落としていて、よくこんなランナウトして登れるな、と感心する。

それに引き替え私はヘロヘロで、アックス振る手ももはや限界。ネコパンチしか繰り出せない。

いざ登ろうとすると、アブミがアイゼンに引っかかって登れないし、そうこうしていると寒さですぐに腕がパンプするし、いちいち体力を奪われる。

何度かぷらーんとなり、見かねた吉田さんがアックスを上から降ろしてくれた。ダブルアックスになってようやく突破し、4P目の終了点にたどり着く。

「ベルグラの壁」

 

この時点で14:45。ドームの登攀が間に合わなければ、5P目終えてバンドから南稜側に出て懸垂する予定だった。

吉田さんは5P目まで登りたそうだったが、上にそそりたつ岩には相変わらずベルグラがびっちり。

私のスピードでは確実に日が暮れる。申し訳ないが、ここから懸垂で降りることにしてもらう。

「余裕の吉田さん」

 

「一方、悔し涙のわたし」

 

と決まれば早速、無線でBCの森田さんと交信。下山することを告げる。

「テントに帰ったら、森田さん中嶋さんから手厳しく言われるんでしょうね」と話しながら下降開始。若干凹むが、その時の私は下降できる喜びの方が大きかった

1回目の懸垂」

 

一日かけて登ったのに、懸垂したらあっと言う間。2回の懸垂で取付きまで戻った。

1回目の懸垂は4P目終了点のピナクルから3P目の終了点まで。3P目終了点には懸垂用リングあり。ここから1回で取付きまで。)

100mさえ登っていない事実に愕然とするが、一目散に大同心稜の樹林帯まで戻り、一安心。再度森田さんと交信して、お菓子をむしゃむしゃ食べて、ダラダラとテントに戻る。

待ってくれていたみんな&迷惑を掛けた吉田さんとビールで乾杯。(あまりの申し訳なさに吉田さんにはビールを奢らせて頂きました。)

森田さんと中嶋さんからこっぴどく言われることを覚悟していたが、逆に「あの条件・天候で4P目まで良く登った」と言われ拍子抜け。

私がもっと早く登れれば、完登出来たかもしれないのに、吉田さんには大変悪いことをしたとつくづく反省。

なぜ登れなかったのかまず、準備不足は否めない。合宿前にアイゼントレは1回のみ、アブミも2回練習しただけ。

それでも、「アブミのルートなんだからルートさえ間違えなければ、あとはハーケンに沿って登れるだろうなんて、心のどこかで思っていたのも事実

が、実際はアブミが続くというより、フリーの部分が多かった。そしてアブミからフリーへの切り替えが毎回怖かった。

また、今回の状態では、アックスは二つあったほうが良かった。

翌日登った赤岳主稜は快適で、合宿明けは「私にはやっぱり冬壁なんて無理。赤岳主稜ぐらいが身の程。『冬の屏風』なんてもう口にしません」と思っていたが、こう記録を書いていると悔しさが込み上げてくる。

我ながら往生際の悪さに呆れるが、今の力量では本当の冬壁は登れないことを思い知った。

そそり立つベルグラの張った壁、風に舞うロープ、ビレイ中全身に付く霜、雪と氷に隠れてなかなか見つけられない支点、

そしてやっと見つけたハーケンに詰まる氷、寒さでやたらパンプする腕、どれも冬壁なら当たり前のこと。

それらを辛いと思わなくなるには、全ては登る技術・力を身に付けることだと実感した。

冬の屏風とまではいかないが、ひとまず大同心をリベンジせねば。(あ!言っちゃった!!)

 

文章/小林

記録/小林