ヨセミテ (2016/5/28 - 6/5)

メンバー:崎間、kinaco(会員外)

 憧れのヨセミテへ行ってきました。大きな岩壁、無数のルート、快適なキャンプ場、毎日現実味がないくらい充実の日々でした。

◆概要

行動
エリア
登ったルート
2016/5/28(土)
晴れ
出国。自宅9時発。伊丹→成田→サンノゼ。サンノゼでレンタカーを借り、REIで買物。約100マイル移動してオークデールのスーパーで食料買出し。オークデールのモーテル泊。
2016/5/29(日)
晴れ時々雨
オークデールから約90マイル移動してヨセミテ入り。チャーチボウルで足慣らし。キャンプ4のサイトが確保できずマリポーサのキャンプ場泊。
Church Bowl, Yosemite Vally
Church Bowl Lieback 5.8
Church Bowl Tree 5.10a
Aunt Fanny's Pantry 5.4
2016/5/30(月)
晴れ
キャンプ4のサイトを確保。ナットクラッカーを登攀。
Manure Pile Buttress, Yosemite Vally
Nutcracker 5.8 5P
2016/5/31(火)
晴れ
ハーフドームのアプローチ偵察。バレー内を観光。スワンスラブで軽くクライミング。
Swan Slab, Yosemite Vally
Grant's Crack 5.9
2016/6/1(水)
晴れ
スネークダイクからハーフドームを登頂。15時間行動。
Half Dome, Yosemite Vally
Snake Dike 5.7R 8P
2016/6/2(木)
晴れ
トゥオルミ高原へ足を伸ばしてレンバートドームとダフドームでクライミング。熊を見た。

Lembert Dome, Tuolumne Meadows
Northwest Books 5.6 2P 

Daff Dome, Tuolumne Meadows
Guide Cracks 5.8
Great Circle 5.9 R-
2016/6/3(金)
晴れ
早朝チャーチボウルでクライミングの後、テント撤収。サンノゼへ移動してレンタカー返却。ホテル泊。
Church Bowl, Yosemite Vally
Bishop's Terrace 5.8 2P
2016/6/4(土) - 5(日)
帰国。サンノゼ→成田→伊丹。自宅22時着。

◆詳細

(1) 甘くなかったキャンプ4

 5/29(日)、オークデールのモーテルを3時半に出発。ついつい左車線に進入しそうになりながら、ヨセミテを目指して州道120号線を東にレンタカーを走らせた。5時半、薄明るくなった頃にヨセミテバレー内に入った。左手に巨岩エルキャピタン、右手にもなにかの巨岩、そしてまた左手にヨセミテフォールスの大瀑布。いちいち車を停めて見とれてしまっていたが、後から思えば、寄り道せずにキャンプ4に直行しておけば良かった。

<▲ヨセミテフォールス>

 道路脇の看板に従ってキャンプ4に到着すると、噂の受付はすでに順番待ちの列が出来ており、ぼくたちの着いた6時ですでに30人以上並んでいた。シュラフで寝てる人、キャンピングチェアに座って談笑するパーティー、色々だ。ぼくたちも最後尾にマットとシュラフを持込み待機した。徐々にぼくたちの後ろにも人が増えてきた。シュラフに包まり横になってウトウトしていると、7時半、レンジャーが来て番号の書いてあるカードを先頭から配りだした。いよいよ今日はキャンプ4デビューだな、とほくそ笑んでいると、あろうことか丁度ぼくたちの前でカードが品切れになってしまった。行き渡ったカードは41番まで。つまり今日キャンプ4に入れるのは41人までということだ。レンジャーは非情に「今日はこれ以上は空きがない。ビレッジに行ってテントサイトのキャンセル待ちをするか、ヨセミテ公園外のキャンプ場を探すように」と言い放った。

<▲キャンプ4の受付>

 どうにもならなさそうなので諦めて、テントサイトのキャンセル待ちに希望を託す事にした。紆余曲折を経て、ハーフドームビレッジ(旧カリービレッジ。2016年から名称変更された)にCampgrond reservationがあることが分かり、そこへ行って受付のレンジャーに事情を話すと順番待ちリストにぼくたちの名前を書いてくれた。ぼくたちは17組目。キャンセルが行き渡るかどうかは保証できないが、15時にもう一度ここに来い、とのことだった。遥かアメリカまできて、これから5日間の宿泊地がまだ確保出来ておらずとても不安だった。こうしてヨセミテの1日目がはじまった。

(2) チャーチボウルでヨセミテはじめ

 キャンプ4の事は一旦忘れ、海外初クライミングとして、チャーチボウルでショートルートを登った。10時に最寄り駐車場着。このエリアは駐車場から目と鼻の先で、平な地面を1分歩くといきなり急峻な壁が立ち上がっており、アプローチ至近でクライミングが楽しめた。ただし、蚊が多いので虫除けは必須だった。トポをにらみ、グレードが手頃で語感の良い「チャーチボウルレイバック 5.8」にトライした。

 ヨセミテの岩は滑ると聞いていたが、ここは非常にフリクションが良く、快適に登れた。ただ、核心の微妙なレイバック部分はツルツルの所があり焦った。途中のテラスでは遠く左にヨセミテフォールスが見え、なんと素晴らしい体験ができているのだろうと、これだけで満足してしまいそうになった。幸先良くオンサイト。下降は木に掛けられた残置スリングとリング。60mロープでは取付きまで届かず、地上から5m程上の大テラスまで降りた。

<▲チャーチボウルレイバック>

 続いて、有名な「ビショップズテラス 5.8 2P」へ向かったが、2パーティーが既に登っていて混雑している模様。その手前に小川山のカサブランカを彷彿とさせるクラックがあり、その前で佇んでいた青年が、ぼくたちに話しかけてきた。彼はモンタナ州から3人でクライミングに来ているが、この日はパートナーの2人が街に出かけてしまい1人なのだという。そして目の前のクラック「チャーチボウルツリー 5.10a」が今日の目標なのだとか。

 という訳でぼくが彼をビレイすることになった。英語のコール「Take (張ってください)」と「Slack (ロープ出してください)」を教えてもらってClimb on。クリスは何度かトップロープでチャーチボウルツリーにトライした事があるが、リードは初めてとのこと。なかなかスムーズに登って、見事レッドポイント。喜びの瞬間を共有できて少し仲良くなれた。

<▲チャーチボールツリーを登るクリス>

 今度はぼくのリード。ビレイはkinacoさん。クリスがサクサク登った出だし部分は非常にツルツルな上にジャミングもイマイチ、おまけにカムの効きもイマイチで難しかった。上部も概ね同様な感じ。小川山のカサブランカをワンサイズ狭くしたような好ルートだった。フラッシュ。kinacoさんはトップロープで登った。片言の英語でクリスとしばし日本の岩場やキャンプ4の順番待ち等について会話した後、解散。慣れない英会話でどっと疲れた。5.4の簡単なルートを登って14時。キャンプ場のキャンセル待ち問題があるので、ここで1日目のクライミングを終了した。

(3) キャンプ地を求めて放浪

 15時にCampgrond reservationへ行ったものの、キャンセルが出たのは6組分だけで、17組目のぼくたちには程遠かった。さて大変。今日泊まるところがない。ヨセミテ公園内は、熊被害を割けるために公園内での車中泊とか指定場所以外での宿泊とかは禁止されている。熊なんてそうそう出てこないだろうけれど、万一襲われても嫌なので、規則に従って素直に公園内を出ることにした。Campgrond reservationのレンジャーに近場(といっても片道1.5時間くらいまでの範囲)のキャンプ場リストをもらい、ついでにどこが一番空いてそうかも聞いて、州道140号線を探す事にした。

<▲ヨセミテバレーは観光客も一杯>

 2件のキャンプ場を訪ねて断られ、ヨセミテバレー1.5時間の距離にある3件目、一番遠いマリポーサのキャンプ場はなんとか空いていた。散歩中のおじさんに「ここにテントを張るといいよ」と言われてテントを張り、ビールを飲みつつ肉を焼いてくつろいでいると、別のおじさんがすごい剣幕で近づいてきた。「You are not welcom! Get out early!!」とメチャメチャ怒られてしまった。アメリカ人が怒るとああなるのか。どうやらぼくたちがテントを張った場所は、何かのイベントで貸し切りの場所だったらしい。せっかく張ったテントをたたみ、別サイトに移動して落ち着いたのが20時。日が沈みかけていた。明日は5時にキャンプ4受付に並ぼうと誓って眠りに着いた。

<▲追い出されたサイト>

(4) 夕暮れのナットクラッカー

 ヨセミテ2日目の5/30(月)、エルキャピタン隣のマニュアルパイルバットレスにある「ナットクラッカー 5.8 5P」に向かった。キャンプ4の受付が今朝までずれ込んでしまって、行動開始が昼前になったので、どうせならすごく遅い方が暑さもマシだろうし人も少ないだろうと思い、日没時間から逆算して14時からクライミング開始。それでも先行パーティーがまだ登っていた。でも、後から登るパーティーはいなかったので落ち着いて取り組めた。あ、キャンプ4は朝5時に並んだら無事に場所確保できた(それでも20番目だった)。

<▲ようやくキャンプ4に入居>

 ナットクラッカー1P目5.8(崎間リード)、中間部の木までは簡単。そこから主にレイバックムーブとなった。特に、木からの出だしは大フレークで、5m程プロテクションが取れず怖かった。その上は壁沿いにスメアしつつ快適ムーブ。40m伸ばしたあたりでランペに上がり、カムで支点を作ってビレイ。この後、ビレイ点はずっとカムで作った。2P目5.4(kinacoリード)、傾斜の緩い凹角をぐんぐん登る気持ち良いピッチで、終了点は広いテラス。3P目5.7(崎間リード)、スラブとフィンガークラック。4P目5.8(kinacoリード)、微妙なスラブのトラバース、ハンドジャムでの小ハング越え、最後はフィンガーと多彩。45m程。

<▲ナットクラッカー1P目終了点から>

<▲ナットクラッカー2P目>

<▲ナットクラッカー3P目>

<▲ナットクラッカーのビレイ点からヨセミテ渓谷>

<▲ナットクラッカー4P目の終了点から>

 5P目5.8(崎間リード)、トポには出だしのマントリングがルート全体の核心とある。確かに、キャメ0.3でしかプロテクションが取れず、それが足下の状態でマントルを返すのは思い切りが要った。ぼくは上のガバがすぐ取れたから良かったものの、kinacoさんはリーチの関係でデッドムーブになってしまい厳しかったようだ。重いロープをグイグイと引きずり、最後は岩頭に出て終了。チームオンサイト。kinacoさんが到着して19時。エルキャピタンの大きな影が渓谷に落ちていた。

<▲ナットクラッカー5P目。左上の垂壁をマントル>

<▲ナットクラッカー終了点。遠くにハーフドーム>

(5) スネークダイクとハーフドーム

 ナットクラッカーから1日挟んだ6/1(水)、いよいよ、今回の遠征の最大目的である「スネークダイク 5.7R 8P」へ向かった。最寄りの駐車場まで車で移動し、午前3時半から暗闇の中をヘッデン行動開始。前日5/31(火)に下見をしていたおかげで、登山口への移動はスムーズだった。

<▲アタック前日、キャンプ4でスネークダイクで使うギアを検討中>

<▲アプローチ開始>

 1つめのトイレがあるバーナルフォール橋からは、ジョンミューアトレイル(JMT)から別れてミストトレイルを川沿いに登った。暗闇の中に川が流れる轟音と、上流のバーナルフォールの爆音が響き、少々恐怖を感じた。おまけに、ミストトレイルの名のごとく、滝からの飛沫が飛んできた。特にこの時期は水量が多いようで、ミストどころか雨の中を歩いてる感じだった。全身びしょ濡れの寒さに耐えつつミストゾーンを無心でやり過ごし、さらに高度を上げると、今度はネバダフォールが現れた。こいつもミストを発している様子なので覚悟してトレイルを歩いたものの、バーナルフォール程ではなかったので一安心。ちょうど夜が明けてきて、至近からバーナルフォールを望むと、滝の大きさに圧倒され、呆然と立ち尽くして人間の小ささについて考えてしまった。

<▲ネバダフォール>

 スネークダイクの取付きまでのアプローチは、スーパートポにある簡単な地図と文章だけが頼りだった。JMTが分岐しリトルヨセミテに入ってから、左にハーフドームを見つつしばらく行くと左手の砂の斜面に小さなケルンが見え、そこから不明瞭なクライマー道に進入した。やたら巨大な松ぼっくりに感心しつつ30分程道なき道を進むと、ロストレイクに着いた。大きな水面に緑の水草が頭を出し、静かな水面にはハーフドームが写っていた。水鳥も羽ばたいて、見てると楽園のようだけども、実際には藪蚊が多量にいて一刻も早く水辺を離れたかった。ロストレイク近くからは踏み跡が明瞭になり、しばらく行くとハーフドームの裾野をひたすら南面に進んだ。目指すスネークダイクは、南北に伸びるハーフドームの南端にあるのだ。出発から4時間経過した8時半、取付きに着いた。すでに1パーティーが登っており、ちょうど1P目の終了点にいた。後で聞いたが、彼らは前日近くまで来て一泊し、朝イチで取付いたらしい。

<▲スネークダイクへのアプローチ進入地点>

<▲ロストレイクから望むハーフドーム>

 軽量化のため、ロープは60mダブルロープ1本とした。カムはキャメ0.3〜2までを1セット。ナッツ1セット。ヌンチャク6本。スリング適量。

 1P目5.7(崎間リード)、核心の小ハング下トラバースを目指していきなりランナウト。足が滑って恐怖。ハーフドームの岩は茶色っぽいスベスベ部分と、白っぽいザラザラ部分がある。茶色っぽい部分は滑るので、慎重に白っぽい部分を拾って登った。小ハングのコーナーにカムを決め、120cmスリングで延長してクリップ。ここからハング下を左にトラバースする所が核心。足元は茶色、ということは滑る!最初はハングをアンダー持ちしてトラバースしようとしたものの、ハング下クラックは狭くて指がほとんどかからない上、クラックの中が濡れていて悪かった。滑ったら振られて落ちるから嫌だなと思いながら、意を決して1歩下り、茶色部分のシワにスメア。なんとか立てた。引き続いて手はシワにエッジング。なんとか持てた。2歩、3歩と左へトラバースし、ガバポケットを掴んで一安心。5.7のムーブとは全然思えなかった。そこから先はガバで、凹角状のランペを15mくらい登ると、60mロープ一杯でしっかりしたボルトのビレイ点に到着した。

 フォローのkinacoさんも例のトラバース部分で苦労した模様。トラバースの前と後でしかプロテクションが取れないので、リードでもフォローでも同じくらい怖いのだ。kinacoさんは終了点に着くなり「怖かった!リード無理!」と言い、ツルベの予定を変更した。

<▲スネークダイク1P目>

 2P目5.7、気休めにカムをセットしながら下り気味にトラバース後、ダイクを右上してボルトにクリップして一安心。さらに5mくらい右上するとボルトが2つ現れてビレイ点。

 3P目5.7、左のダイクに乗り移るため、3mくらい上のボルトにクリップして、スラブを5mくらいトラバースした。たぶんここはフォローの方が怖い。そしてメインのダイクへ。これでもかと言わんばかりに上に伸びている。宇宙まで行ってしまいそうだ。そして、見上げてもボルトが全然見えない。トポにはこの部分から5.4Rとなっている。上に行けばボルトが必ずある、と信じて慎重に登り、15mくらい登ると1つボルトがあった。さらに15mくらい登るとビレイ点があった。

<▲スネークダイク2P目>

<▲スネークダイク3P目>

 4P目5.4R、25m登ると1つボルトがあり、さらに25m登るとビレイ点があった。5P目5.6は途中にクラックがあり、カムが使えて一安心。6P目5.3R、いきなり30mランナウト。もはや麻痺してきた。

 最後の7P目と8P目はダイクではなくなり、ヘッドウォールに向かってグネグネとスラブとクラックを辿りながら登り、岩の回廊のような所で終了。1つだけ残っていたキャメ0.5と、存在を忘れていたナッツをつかってビレイ。ようやくランナウト地獄から開放された。

<▲スネークダイク4P目終了点から。途中のボルトは1箇所だけ>

<▲スネークダイクたぶん5P目>

<▲スネークダイク7P目>

 8P目を終え、そこからハーフドームの頂上までは、トポに「3rd class slab forever」とある部分を歩いた。スラブフォーエバー、怪しい響き。もうルート上にボルトはない。ランナウトから解放されたら今度はフリーソロだった。ロープを外し、クライミングシューズは履いたまま、難しくはないが万一滑落したら絶対死ねるスラブを疲れた身体でペタペタと登った。凄い高度感のスラブフォーエバー。40分くらい頑張ると、ハイカーが沢山いる平らな場所に出た。もう滑落はしない。平らな場所に居るだけで人間は幸せなのだと知った。13時半。

<▲ハーフドーム山頂までの広大なスラブを前に立ち尽くす>

<▲ハーフドーム登頂記念>

 ハーフドームからの眺めをお腹いっぱいに堪能した後は、重い腰を上げて長い下山にかかった。一般ルートのケーブル道は岩がツルツルに磨かれていて結構厳しかった。これ、事故とか起きてないのだろうか。渋滞のケーブルを30分かけてようやく通過し、JMTを気持ち良く歩いたが、水不足と疲労でペースが次第に落ちていった。日本ではあまり考えられない事だが、16時以降も登りのハイカーに結構すれ違った。まあ、日中は暑いし、20時半くらいまでは明るいから、そのようなことになるのだろう。

<▲一般ルートのケーブル道>

 18時、登山口近くでザックを背負った4人パーティーが前方に見え、こんな時間からどこに行くのかと訝しんでいたら「Sakima!」と声がかかるではないか。顔を見ると、そこにはチャーチボウルで出会ったクリスがいた。スネークダイクを登ったというと「Congratulations!」と祝福してくれた。彼らは今晩アプローチしてビバークし、明日朝からスネークダイクにアタックするのだとか。

 18時半に駐車場到着。久々の15時間行動。早朝のアプローチが前日の事に思えるような、長い長い1日だった。

(6) トゥオルミでの1日

 6/2(木)、前日のハーフドームの疲れがやや残っていたが、丸一日登れるのは今日が最後なので、トゥオルミメドウズに足を伸ばした。トゥオルミまでは、ヨセミテバレーから州道120号線を西に少し戻り、分岐を右折して東に80マイル程の距離。車で1.5時間程かかった。途中で標高8000フィート(約2400m)の峠を通過し、緩やかに下ると平坦な草原が開け、湖と川と草原とドームからなる高原に到着した。標高がヨセミテバレーよりも1000m程高いので涼しかった。

<▲テナヤレイク>

 さて、前日の疲れがあるからアプローチの近い所が良いので、トポをめくって見つけたレンバートドームのノースウエストブックス 5.6 2Pに向かった。目指すルートは名前のとおり北西面なのだが、なぜか勘違いして南東面に向かってウロウロ迷ってしてしまい、取付きまで10分で行けるはずが1時間もかかった。

<▲レンバートドーム。ノースウエストブックスはこの左側の面>

 小さな雪渓を渡ってランペを上がり、テラスからクライミング開始。1P目5.6(崎間リード)、出だし5m上のボルトにクリップして簡単なマントルをこなした後は、顕著な凹角に沿って登った。途中、残置されたキャメ1があり、回収を試みるも完全に詰まっていて動かなかった。凹角部分は日陰で涼しくて、アスレチックみたいで登っていて気持ちが良かった。テラスに出てカムでビレイ。2P目5.6(kinacoリード)、1P目とは対象的に陽が当たって明るく、高度感のある気持ちの良いフェース。こちらも登っていて楽しいピッチだった。3P目3rd(崎間リード)、プロテクションが取れないまま15m程登り、適当なクラックでビレイ。ロープ出さなくて良かったかも。

 ルート途中から見える見渡す限りの草原、その向こうにそびえる峰々が印象的だった。ピッチ数こそ短かったが、登っていて面白くグレードも適切で、心地良かった。景観を堪能した後は、ロープを解きアプローチシューズに履き替え、ドームの傾斜が緩い所を探してテクテクと下降。これが結構ルートファインディングが難しく、30分くらいかけてようやく駐車場にたどり着いた。

<▲ノースウエストブックス2P目>

<▲ノースウエストブックスからの眺め。左上の尖峰がカシードラルピーク>

 ベンチで昼食。木陰に居ると、風が爽やかで、とても心地が良かった。標高が高いせいか、ヨセミテバレーに比べて蚊も少なかった。まだ14時くらいなので、ショートルートを数本登ってみようと、有名どころのダフドームへ向かった。

 ウエストクラックの1P目を狙っていたが、またしてもアプローチで迷ってしまい、1時間近く歩いてよく分からない雪渓に出てしまった。何も考えずにトポの地図にある点線を辿ってしまったのが原因だ。ウエストクラックというくらいだから西面にあるはずなのに、またしても東面をさまよってしまい失敗した。気を取り直してドームの基部を探していると、何やらルートが現れ2パーティーのクライマーがいた。ダフドームのサウスフランケというエリアのようだ。16時。

 ここで「ガイドクラックス 5.8」と「グレーとサークル 5.9 R-」を登った。後者は5.7のフィンガークラックの後に5.9 R-のスラブという構成。R-という表記を初めて見たが、確かにそんな感じ。フィンガークラックは普通だったが、R-のスラブ部分はやばかった。なんとかオンサイトできたものの、もうRの付くルートは懲りごりだ。5.9 R-でこれなのだ、昨今話題の5.14a Rなんてどれほど困難なのか、ぼくには想像もつかない。

<▲グレートサークルの終了点から。上部はツルツルのスラブ>

 17時半に駐車場まで戻り、ヨセミテバレーに向かった。途中、州道120号線が分岐する所でなにやら人だかりがあり、注目されている方向をみると、熊がいた。草むらで何かを食べている様子だった。ヨセミテバレーに戻ってハーフドームビレッジでシャワーを浴び、ストアでビールと食料を買い、キャンプ4に戻って最後の一晩をしんみり味わった。

<▲熊>

<▲SIERRA NEVADA PALE ALE。このビールが一番美味しかった>

(6) 最終日、そしてつぎの目標

 居心地の良かったキャンプ4とヨセミテ生活も今日で終わり。最後は、初日に登れなかったチャーチボウルの「ビショップズテラス 5.8 2P」を朝イチで登った。7時クライミング開始。下降に備え、60mシングルロープの他に、60mダブルロープをバックロープで引きながら1P目を崎間リード。フレークが思いの外広く、キャメ6を置いてきたことを後悔した。2P目はkinacoリード。終了点テラス間際の垂壁ダブルクラックがこのルートの核心だろう。キャメ3サイズが連続するので、ハーフドームビレッジのショップで購入したトライカムが役立ったようだ。kinacoさん、気合の入った登りで見事オンサイト。最後まで良いクライミングができた。

<▲ビショップズテラス1P目>

<▲ビショップズテラス2P目。上部のダブルクラックが核心>

 キャンプ4に戻ってテントを撤収。帰りの飛行機を考えて機内持ち込み分の重量を増やしてパッキングした。ヨセミテを離れる前に、エルキャピタンの取付きはぜひ見ておきたかったので、近くの駐車場に車を停め、カメラだけ持って壁に向かった。「ノーズ 5.9 C2 34P」を登っている幾人ものクライマーが見え、時折コールが聞こえた。リードクライマーが動いていた。遠くから見るだけでも十分大きいエルキャピタンであるが、取付きから壁の中の人と対比して見ると、ひときわ大きく、別世界のように見えた。

 ヨセミテに来るまでビッグウォールクライミングについて全然ピンと来ていなかったが、実際目の当たりにすると、チャレンジしてみたいという意欲が湧いた。まだまだ楽しみは尽きない。

<▲エルキャピタンを見上げる>

◆備忘録

クライミング

生活

換算

文章:崎間