穂高屏風岩東稜 (2017/11/3-5)

メンバー:小林(L)、中嶋、杉橋、崎間(記)

◆概要

 今シーズンの冬合宿に屏風東稜へ挑むパーティーの下見山行に崎間も加えてもらい、4人で晩秋の屏風を目指した。あいにく、登攀日の11/4のみ悪天で、雨と雪の中の厳しいクライミングとなり東稜の途中までしか行けなかった。しかしその分、本番さながらの気が引き締まる山行を経験できた。

◆詳細

1日目:11/3(金)

 前夜22:00に梅田モンベル前に集合し、杉橋さんのフォレスターで平湯を目指す。途中、降りるべき飛騨清見ICを通り過ぎてしまう(運転してたのは崎間です。すみませんでした。中嶋さんとの会話に気を取られてました)。次の白川郷ICまで25km、往復50kmをロスし、3:30に平湯バスターミナルへ到着。車中で暖房を付けたまま、座って仮眠する。

 6:30頃に目覚め、あかんだな駐車場7:20発のバスで上高地へ移動。本日は横尾までの移動と渡渉点の偵察だけなので、快晴の上高地をのんびりと歩く。明神館では中嶋さんから入山祝いのぶどう酒が振舞われ、徳沢では小林さんからソフトクリームが差出される。感謝。歩いている時間以上に歓談時間が長かった気がするが、11:50に横尾着。

<▲快晴の徳沢>

 ベースの4テンを設営し、渡渉点の確認に小林さん、杉橋さん、崎間の3人で向かう(中嶋さんは待機)。ついでに横尾岩小屋に登攀装備をデポ。ちなみにこの岩小屋は、ワイドクラック(スクイズチムニー〜オフィズス)でもある。

 さて、渡渉点を探してウロウロした結果、距離約7m、深さ最大膝くらいの部分に決定。裸足で突入するも水が強烈に冷たく、3歩くらい歩くと痺れてしまう。杉橋さんが最初に突破。他の2名もそれに続く。他に良い場所はないかとだいぶ下流も探してみるが、なさそう。明日のために少しでも渡渉距離を短くしようと、大き目の石をバケツリレー方式で地道に川へ放り込む。そうして造った浅瀬がそこそこ満足できる長さ(3mくらい)になった所で切上げる。

 横尾への帰り道、チョーク跡のついたボルダーを発見したのでボルダリングして遊んでみる。被った前傾壁の下部に適度なガバホールドがあるので、トラバースするとなかなか楽しい。

<▲横尾ボルダー>

2日目:11/4(土)

 5:00起床。テントにシトシトと雨が当るが予定どおり出発。懸案の渡渉は、前日に土木工事した事、中嶋さん発案の「裸足にビニール袋を履いてさらに靴下を履く」事、以上2つの方法によってダメージを最小限に抑えられた。なお、杉橋さんはネオプレンソックスとストックを準備している用意周到さだった。急なルンゼを30分くらい詰めると、T4尾根基部に到着。

<▲痺れる渡渉>

(1) T4尾根

 朝からの雨で壁はビショビショだけど、下見なので行ける所まで登る。カッパを着て、ハーネスとクライミングシューズを身に付け、@小林さん・崎間、A中嶋さん・杉橋さん、の順で取付く。

 1P目、小林さんリード。傾斜が緩いものの、ホールドが細かいので濡れてると悪い。スメアも効かない。小林さんは黙々とスルスル登っていったが、フォローで登っても非常に怖かった。30m程ロープを伸ばしてビレイ。ここはしっかりしたボルトとロープで支点が設置してある。中嶋さん曰く、積雪期は1ピッチ目の大半が埋まるとのこと。

<▲T4尾根1P目を登る>

 2P目、崎間リード。傾斜は1P目よりも急だがホールドが大きいので、濡れている状態ではこちらの方が登りやすい。濡れた軍手でハンドジャムがバチ効きになるとウットリしてしまう。なるべく大きいホールドを選んで高度を上げる。後半、キャメロット1〜4番サイズのクラック部分をレイバック気味に登る。中嶋さんによると、冬季はここが難しいそうだ。30m程でピッチを切る。

<▲T4尾根2P目終了点から>

 ここから上はII〜III級のよくあるアプローチ道という感じで、コンテで進む。濡れているせいで、所々難しい部分があるので緊張する。しばらく急登を辿るとT4テラスに到着。聞いていたとおり広めの砂地の平地があり、4テンなら楽に、6テンならギリギリ張れそうだ。辺りはガスに包まれており展望なし。小林さんからテルモスのお湯を頂き、ほっと一息付く。この頃から雪が舞い始める。しばらく待つと中嶋さん・杉橋さんパーティーも到着する。9:40。

<▲T4テラス。まるで雪山>

(2) 東稜

 ロープを引きずりながらバンドをトラバースしてT2テラスへ移動する。途中「フリークライミング」ルートの取付きにヌンチャクが忘れられていたが、ぼくはそれをスルーしてT2テラスに行く。後から現れた小林さんのギアラックには、先ほどの残置ヌンチャクが光っている。ともあれ、ようやく、目標の東稜スタート地点である。

 1P目の岩は奇跡的に乾いている。小ハングの薄被りが風雪から壁を守ってくれたようだ。ボルトラダーで直登する1P目を崎間リード。10:10。小ハング部分のボルトが1箇所遠く感じたが、他は概ね快適。1P目終了点のテラスには3人くらい立てる。ビレイしている途中、少しガスが切れる。

<▲東稜1P目を登る>

 2P目、小林さんリード。2ピン目がいきなり遠く、部分的にフリーとなる。ここで、先ほど回収された残置ヌンチャクの出番である。ヌンチャクが解体されて延長スリングと化した。厳冬期のためのルート工作とのことで、現場で調達したギアを余すことなく活用する姿勢を、ぼくも見習いたい。小林さんが登っている間、厚い雲の切れ目から時おり太陽が出て少し暖かくなる。予報では、前線の通過後には西高東低の気圧配置となり、寒気は強まるが天候は回復するらしかったので、いよいよ回復かと期待する。が、ぼくが2P目をフォローする頃には雪が勢いを増し、手がかじかんでアブミの掛替えすら辛くなる。時刻は11:50。ここで撤退の英断。2P目のビレイ点はハンギングで狭いため、中嶋さん・杉橋さんパーティーは2P目まで行かず1P目終了点から下降。

<▲東稜2P目を登る>

<▲東稜2P目終了点から>

(3) 下降

 東稜2P目からは懸垂下降50mでT2テラスの下の方まで降りられる。T4テラスからは懸垂下降50mを4回でT4尾根基部まで降りられる。ダブルロープが計4本あったので、まずロープ2本で懸垂下降セット、残りのロープを持った2人が先に下降しその先で懸垂下降セット、という流れでスムーズに降りる事ができた。この辺り、中嶋さん、小林さんの熟練感がとても頼もしかった。東稜2P目から1.5時間程でT4尾根基部まで下降終了。あとは雪が降り積もって滑りやすい1ルンゼをそろそろと下り、最後に渡渉をこなす。

<▲T4基部から1ルンゼを下る>

 14:40、無事に横尾に帰還。雪は止み、青空が広がりつつある。下山した途端に晴れるとは皮肉なものだが、山の神様が与えてくれた試練だったと思うことにしよう。

3日目:11/5(日)

 昨日早くに眠り過ぎたので案の定、深夜に目が覚める。テントの外に出ると月が煌々と光り、青白い夜空に新雪の明神岳が輝いていた。テントへ戻りシュラフに潜り込むが、一度目が覚めるとしばらく眠れない。月明りの明神岳をぼんやりと思い浮かべながら、この世界は美しいのだな、などと考えていると再びウトウトとし、5:00のアラームが鳴り飛び起きる。

 快晴の朝、横尾から上高地までの林道は今日も快適だ。雪山装備や冬合宿、今後のアイスクライミングの計画などを話しながら歩くのはとても楽しい。横尾、徳沢、明神館はそれぞれ小屋締めの準備を進めている。

 上高地バスターミナル2Fの暖かい食堂でコーヒーや定食を採り、人心地ついて10:00のバスで平湯へ移動。平湯バスターミナル2Fの日帰り湯で暖まる(すいてて良かった)。帰路、吹田の手前で事故渋滞に遭遇した以外は順調に移動でき、18:00過ぎに大阪着。江坂→東三国→新大阪と各地点へ杉橋さんに送って頂き、解散(運転ありがとうございました)。

<▲河童橋から穂高連峰>

◆登攀装備(一人当たり)

◆食事

◆感想

 登攀日の11/4は早朝に寒冷前線が北アルプス上空を通過し、昼前くらいから日本列島は西高東低の冬型気圧配置となった。そのため、前日の朗らかな秋晴れが一転し、昼前くらいから強烈に冷え込み、厳しいクライミングとなった。屏風東稜を楽しむという点ではとても悪いコンディションだったが、冬季クライミングに向けての予行演習という点では絶好のコンディションであったとも言える。

 個人的にはいくつもの要改善点がみつかった。例えば、以下の点である。

 11月上旬の3連休、朝晩は冷え込んだ。およそ2ヶ月後の冬合宿ではもっと寒いだろう。年末はバスがないので釜トンネルから歩かなければならないからアプローチもしんどくなる。それでも、街に帰って数日も経てばまた、山に入りたくなるのだから不思議なものだ。

文章:崎間 (2017/11/8)