槍ヶ岳北鎌尾根 (2017年6月17日〜19日)
メンバー:深美
6/16(金)
22:30 梅田発夜行バスの「さわかや信州号」にて上高地へ。
出発時間ぎりぎりになってしまい翌朝の食料を買いそびれてしまう。
車内は冷房が効きすぎていて寒い。
6/17(土) 快晴
05:30 上高地着
天気はいいが気温は低く上着を着込む。長いアプローチを冬靴で歩くのが嫌だったので軽量のトレランシューズを持参。徳沢、横尾と新緑の中気持ちよく進んでいく。
太陽が登るにつれ気温も上がり槍沢ロッヂに着くころには半袖で汗だくの状態。
ババ平でようやく雪渓がでてきたので冬靴に履き替える。
11:00 大曲
前に2パーティーほどいるがみな殺生ヒュッテ方面へ直進していき水俣乗越方面へ進むパーティーはいなそうだ。
いまいち大曲の分岐がどこかはっきりわからなかったが、これだと思った雪渓にあたりを付ける。
急な斜面と暑さにバテながら登っていくと途中雪渓が途切れ、強引に藪こぎをし稜線に出る。この時は稜線を右手(西側)に少し下りた所が水俣乗越だと思っていた。
【本当は左手(東側)に下ったところが本当の水俣乗越で、自分が下りた西側のコルは「偽の乗越」だった。】
14:15 「偽の乗越」
標識もないし地形的に水俣乗越ではないなと気付いたものの、足元の雪渓が下部で天上沢に合流するのが視認できたので「偽の乗越」から下ることにした。
広い雪渓の真ん中あたりにも大きな岩がゴロゴロしており落石が多いことを物語っている。
15:30 北鎌沢出合
間の沢と合流し少し下ると北鎌沢と思われる雪渓があったので、その付近で幕営することにした。
【実際には北鎌沢との合流地点はもっと下流であり、間違えたのは名も無き沢もしくはただの雪渓と思われる。】
晩飯にパスタを茹でて食べるが食べ終わってもまだまだ日は長い。
やることもなく本を忘れたことを後悔する。仕方ないので18時に就寝。
6/18(日) くもり
04:40 起床
夜中に一度目が覚めたとはいえまさかの寝坊。外はすでに明るい。
05:30 出発
北鎌沢と思われた雪渓を登り始めるも真正面に槍ヶ岳が見え始める、いやこれはおかしいと思い一旦下る。そのあとも間ノ沢の方へ行ってみたり正解がわからずしばらくウロウロする。
天上沢を思い切って下ってみるとようやく本当の北鎌沢を発見する。合流地点にはケルンが積まれ、稜線までくっきり伸びる雪渓、丁寧に目印のテープまであり判りやすかった。
07:20 北鎌沢出合 (1830m)
北鎌沢の水量は豊富で、スノーブリッジが発達し雪渓の所々に落とし穴のような大きな口が空いている。
踏み抜かないよう注意しながらなるべく雪の厚そうなところをドキドキしながら渡っていく。
途中の左俣との分岐があるが間違えないよう右俣の方を選択。
次第に傾斜がきつくなり右手に“ピッケル”、左手には“拾った木”のダブルアックス状態で高度を上げていく。雪がやわらかいのでいい感じに木が刺さってくれる。
下から見て稜線だと思っていた地点から先がけっこう長く、ひたすら続く雪渓の登りに体力を奪われる。
09:50 北鎌のコル (2470m)
コル上は平らな広場になっておりテントも張れそう。
稜線上にも雪が多く残っており、所々緊張を強いられるトラバースが出てくる。雪庇が発達している箇所もあり慎重に進む。
P8手前付近にて岩が出ている夏道の途中、急に2m以上もある巨大な雪の層が現われて行く手を阻む。
なんだこれは。少しかぶり気味になっておりさすがにザック担いで越えていくのはきつい。
一旦空身になり傾斜が緩いところまでトラバースしなんとか突破する。
ザックを取りに戻り再度雪の上に出られたものの、越えた雪の壁から下は切れ落ちておりロープなしで無理して登る所ではなかったと後悔。
この先も同じような場面が続けば来た道を戻ることも難しいと感じる。
それでもせっかくここまで来たしどうしようか迷うが、谷底からガスが昇ってきているのが見えあきらめがついた。
この状況で視界が無くなればどうしようもない、残念だけど諦めて引き返せるうちに撤退しよう。
11:00 撤退
撤退を決めたものの、北鎌沢の急斜面の下りは登り以上に大変であった。雪がグズグズでアイゼンが効かず気を抜くと足場ごと崩れてしまう。
1度、15mほど流されてしまい滑落停止でなんとか止まることができたが肝を冷やした。
そうかと思うとたまに雪の薄い層があり、踏み抜いて沢の上に落ちてしまうことも何度かあった。上からだと分りにくいが大きな穴にだけは落ちないように気をつけ神経をすり減らす。
北鎌沢の出合に無事戻ってこれた時は本当にホッとしてこれであとは帰るだけだと思っていた。正直この時点で気の緩みはあったのだと思う。
13:45 北鎌沢出合
北鎌沢の雪渓の往復で体は疲れ切っていたがテントを張るにはまだ早い。ガスがかかってきて視界は悪いが稜線を越えて槍沢まで行くくらいなら大丈夫だろうと甘い考えだった。
本来のルート通り水俣乗越から帰ろうと間ノ沢方面へ向かうもののどうも水俣乗越への道が見つからない。
途中藪こぎしてみるも時間を浪費するばかりだった。結局水俣乗越は諦めて確実な来た道(偽の乗越)から帰ることにする。
15:30
仕切り直しで昨日下ってきた雪渓を登っていくことにする。疲れと空腹から一歩一歩の力が出ずペースは上がらない。ただこの雪渓を登りさえすればそのうち稜線に出られるだろうと思い黙々と進む。
視界は悪く目指す稜線は全く見えず、白い雪面だけが上へ上へと続いている。
もうかなり登ってはきているが一向にゴール(偽の乗越)が見える気配はない。よほど自分のペースが遅いのだろうかと思う。
ようやく上の方にうっすらとコルらしきものを確認でき、やれやれあそこまで行けば終わりだなと最後の力を振り絞る。しかしそこにあるのは更に上へと伸びる雪渓だけ。
同じようなことが2,3回続き、登りがエンドレスに続くかと思われ落胆とともに叫びたくなった。
流石にこれはおかしいと思うものの疲れがピークで立ち止まって考えるということができなかった。
いつからか傾斜がかなりきつくなっており、またピッケルと木のダブルアックス状態で黙々と登る。
気を抜けば落ちてしまいそうなくらいの急斜面で休憩もままならない。日没のタイムリミットも近付いているがテントを張れそうな場所もない。
19:00 雪渓の終わり
とうとう雪渓の最後が見えてきたが稜線ではない、まだその上部には岩と藪が続いている。大きな岩の下のマット半畳ほどのスペースが唯一ビバークできそうなポイントだ。
荷物を降ろそうかという時にふと振り返るとガスの切れ間から槍ヶ岳の姿が!!
ありえない方向にその姿を確認し、しばし呆然とする。そしてすぐ自分の過ちに気付いた。
南に進んでいたはずがいつの間にか東向きに進み全然違う雪渓を登っていたようだ。ガスが晴れるとだいぶ下の方に目的地の「偽の乗越」らしきコルが見える。いったいどこまで来てしまったのだろうか。。。
日が暮れると気温が下がるのも早く、いつまでもがっくりしていられない。狭いスペースにマットを敷きビバークの準備をする。
とりあえず落ち着くためにお湯を沸かしカフェオレを一杯。水は1リットルほど残っているが翌日のことも考えなるべく節約。
晩ご飯はレトルトのサバの味噌煮、ソーセージなど固形のもので簡単に済ます。
ありったけの服を着込み、シュラフに潜り込む。その上からシュラフカバー、テント、フライシートを被り万全の態勢で寝る準備をする。
顔面に吹き付ける谷からの風は冷たいが気温はそこまで低くない。
すぐ横は切れ落ちた雪渓で今いる場所もわからないと状況はシビアだったが、気持ちは割と落ち着いていた。
冬合宿のビバーク訓練のおかげかなと思いながら(その時の方が寒かった)、とにかく明日の為に体力を回復させることが第一なので早々に寝ることにする。寝ている間に落ちないようピッケルで確保する。
遠くには槍ヶ岳山荘の明かりが見え、人の営みの気配を感じつつ眠りに落ちる。
すっかり寝てしまい夜中1時ころ目が覚める。目の前にはそびえる槍、穂高のシルエットがはっきり見え空には無数の星がきらめいている。寝ながらの絶景に見とれながらまたウトウトする。
6/18(日)くもり
04:45 出発
出発の時点では、時間をかけてでも昨日登ってきた雪渓を下り確実に元の道に戻ろうと思っていた。しかし朝一の雪はカッチカチでまるで雪壁のような状態になっている。
バックステップでピッケルを刺し、アイゼンを蹴り込み数歩下がるが斜面は氷のように固く相当慎重にいかないと態勢を保てず落ちそうだ。
とてもこの状態で下まで行くのは無理だと判断し、改めて稜線を目指し登っていくことにする。
藪の中を西方向へ進み登るが、急斜面のうえザックが木に引っ掛かり少し進むのも苦労する。藪と格闘ししばらく行くと小さな尾根の上に出ることができた。
視界が広がり、右下には小屋が見える。ヒュッテ西岳に違いない!!そして今いる尾根を登っていけば西岳に着くだろうと確信を得た。
05:30 西岳頂上
とにかく高いところを目指し進んでいくと頂上に出ることができた。西岳山頂の標識が見えた時は本当に嬉しくて安堵した。無事に一般道に帰ってこれて良かった。
ヒュッテ西岳はまだ閉まっており、水俣乗越までは一般道とはいえ夏道もほとんど出ておらずトレースもない。所々厳しい雪渓のトラバースも出てくるので慎重に進む。
「偽の乗越」まで下ってきて改めて西岳を振り返ると間違って登った雪渓がよく見える。
ものすごく急に見え、知らずに行ったとはいえ恐ろしくなる。
【西岳:真ん中の雪渓を直上。頂上右下の雪渓が途切れるあたりがビバーク地点。】
水俣乗越から下り、槍沢ロッジでようやく一息つく。ビールが最高にうまい。
徳沢でカレーを食べ、上高地に14:30頃到着する。
下る最中にネットで予約した「さわやか信州号」にて上高地から大阪へ。
その日の夜には家に到着し、無事帰ってこれて改めてホッとした。
【総括】
・例年より雪の量が多く、沢などの状況も事前に調べていたものと違っていた為迷いやすかった。
またこの雪解け時期独特のリスク(やわらかい雪質、スノーブリッジによる踏み抜き、岩と雪のミックスによる難しさ)を身をもって感じることが出来た。
・軽量化のためロープは持っていかなかった。結局使う場面はなかったが気持ちの問題で、持っていなくて不安だなと感じる時があった。
・雪渓をどこで間違ったか全く気付かなかった。ガスで視界がなく周りが真っ白で自分はまっすぐのつもりでも全然違う方向に行っていた。
おかしいと思ったが進めば稜線に出られると思い込んでいた為、楽観的で思考停止状態だった。
コンパスを持っていたが特に方向を確認することはしなかった。結局周りの景色が見えるまで自分の位置を見誤っていた。
今回スマホのGPSは使わなかったがこのような状況ではかなり有効であると考えられる。
・ビバーク自体は特に問題なかったが、天気に恵まれ運が良かっただけと考える。
最近まで雪も降っておりあの場所で天候が荒れていたらなすすべなく厳しい状況に陥っていた可能性もある。ビバークする状況になってしまったこと自体反省すべき点である。
・結果的にはあまり人が行かないようなルートで西岳の山頂までダイレクトに登ることができ、何より無事に帰ってこれた為満足はしているがこの失敗を次に活かせるよう謙虚に山と向き合っていこうと思う。
文責/深美