大山北壁 別山 幻のカンテ (2017/2/4)

メンバー:吉田(L)、崎間(記)、山口※1、榊原※1

※1 別行動で別山中央稜を登攀。

◆概要

◆詳細

2/4 快晴

 6時、大山寺の駐車場で吉田さんと合流し、装備を整え元谷へ向けて歩き出す。今回、吉田さん・崎間パーティー(吉田P)は三鈷峰西壁のアイスルートを狙っていたものの、雪で埋まって氷が見えないため、山口さん・榊原さんパーティー(山口P)と共に別山を目指すことにした。山口Pは中央稜を目指し、吉田Pは右壁を登ることにする。別山の基部まで行動を共にし、ここで登攀装備一式を付けてから別々に行動を開始。

<▲向かって左のスカイラインが「幻のカンテ」>

 吉田さんも初めてという右壁。ぼくは大山北壁自体が初めて。取付きがよく分からず、なんとなく右壁へ向かっていたつもりがいつの間にか中央稜に着いた。さてどうしようと見上げると、別山の左端に魅力的なトゲトゲのスカイラインがそびえている。これが「幻のカンテ」で、吉田さんもまだ登ってないとのこと。ではあれに行きましょうか、と中央稜から雪面をトラバースして幻のカンテに取付いた。このときぼくは、後々の恐ろしさを想像することすらできなかった。

 灌木が生い茂る傾斜の強い壁の下でロープを出す。ロープは吉田さんの真新しいシングル60m。1P目、崎間リード。しっかりした灌木を掴みながらほとんど木登り。木に乗った雪がつぎつぎに落ちてきて全身雪まみれとなる。傾斜が強いので木を掴んだ前腕がパンプする。ひたすら直登して40mで灌木帯を抜けた所で、灌木とイボイノシシでビレイ。思えばまともにランニングビレイが取れたのはこのピッチだけだった。

<▲1P目の途中から>

 2P目、吉田さんリード。ゴジラの背のように威圧的なリッジが視界をふさぎ、なかなかの迫力だ。2P目はそのリッジ西面の切り立った壁を登る。残置ハーケンの類はなし。ダブルアックスを岩の隙間に打込み、吉田さんが登って行く。なかなかプロテクションは取れないようで、かなりのランナウトだ。ビレイしているぼくも緊張する。「大同心より悪りーなー」と言いつつも見事に登り切った。40m。フォローでも結構難しく、岩の隙間にアックスが引っかかればラッキーで、それを頼りにバランシーな乗り込みで高度を稼ぐ。唯一のプロテクションであるイボイノシシは引張ったら抜けた。2P目の終了点にはしっかりとしたペツルあり。これが、ルート中で唯一発見した人工物だった。

<▲2P目を登る吉田さん(写真中央やや上)>

 3P目、崎間リード。リッジの西面をそろそろと進み、ゴジラの背びれに食い込んだ凍ったチムニー状を雪を剥がして這い上がる。プロテクションは効いてなさそうなイボイノシシ1本のみ。つかんだ岩がのきなみ落石と化す。やっとのことでチムニーからもがき出ると、そこは積木でできているかの様なリッジだった。

<▲3P目のチムニーを登る崎間(写真中央上の黒い所)>

 立っている場所そのものが今にも崩れるのではないか、という疑心暗鬼に駆られ顔面蒼白になり、本気で足が震えた。進まねば。しかしどうしても前に進めない。一歩が踏み出せない。ぼくには登れない。あのチムニーをクライムダウンするしかないのか。吉田さんに声をかけると「じゃあオレ行ってみるわー。そこでビレイしてー。腰がらみでも何でもいいけー。」の声。リッジに跨り、腰がらみでビレイしてリード交代。

 さらに問題なことに、腰がらみビレイしている途中、左のスクリューホルダーにラッキングしていたアックス(アズターのハンマー)が捻じれたので修正しようとしたら、パカッと外れて弥山沢の谷底に落ちてしまった(登攀終了後回収を試みるも発見できず)。自分が落ちなかっただけでありがたいと思うことにしよう。

 4P目、吉田さんリード。「おー、こりゃ悪いねー」と言いつつも、問題の積木カンテを乗越えて進んでいく。ぼくの目に映っていた見えない壁を吉田さんが壊して進んだ。激悪だったのは5m程のトラバース部分だったようで、そこから上は比較的安定しているとのこと。スルスルとロープを伸ばして行く。とはいえ相変わらず落石は多いしプロテクションは乏しいようだ。55m。大山の壁は「心の強さ」と「絶対落ちない力」が試されるなあ。ふと隣の尾根を見ると、山口Pが登っている。彼らも頑張っていると思うと心強い。

<▲4P目にロープを伸ばす吉田さん>

<▲中央稜を登る山口P(左上と右下)>

 5P目、崎間リード。山頂までのウイニングラン。傾斜は緩み尾根の幅も少し広くなってきた。ピナクルにスリングを巻いてプロテクションとしながら慎重に高度を稼ぎ、別山ピークにたどり着いた。吊り尾根手前の残置支点には先行の3人パーティー(彼らは右壁を登ったようだ)がいたので、山頂の安定した雪面でスタンディングアックスビレイ。青い空に映える弥山、剣ヶ峰、三鈷峰を背景に吉田さんが登ってくる。

<▲5P目を見下ろす。後ろは弥山尾根>

 あとは、話に聞いた馬の背の吊尾根を渡る。ここもなかなか怖いが、崩れそうにはないので幻のカンテに比べればましだ。吊尾根を渡り切ったら、稜線を目指して急な尾根を登る。先行パーティーがちょうどすぐ前にいてラッセルをお借りできた。ありがとうございました。一般道のある稜線に抜け、ようやく平らな所に立てた。ここで、中央稜を登っている山口Pを待つ。14時前。

<▲別山ピークから吊尾根>

<▲主稜線から弥山・剣ヶ峰>

 主稜線でしばし待つものの、山口Pがなかなか顔を出さないので心配になり、吉田さんと共に再び別山ピークに偵察に行く。するとタイミング良く山口さんが最終ピッチを登っている所だった。16時頃、山口Pの2人と合流。中央稜はまったく陽射しがなくて寒かったようだ。お疲れ様でした。

<▲中央稜最終ピッチを登る山口さん>

 下山後、大山寺の適地でテントを張り、吉田さんの豚しゃぶを美味しく頂きながら宴会。明日は雨との予報だが、夕焼けも見れたし、満天の星がかがやいていた。が、翌朝はやっぱり未明から雨。最近の天気予報はよく当たる。ぼくの用意したトマトチキンラーメンの朝食を採り8時撤収。吉田さんに米子の温泉とレストランを案内頂いた後、帰路に着いた。

備忘録

感想

 「幻のカンテ」は浮石が多く、傾斜も強く、残置支点がきわめて少ないためライン取りが正しいかどうかも分からず、本チャン慣れしていないぼくにはとても怖かったです。その分、初登気分が味わえ、第一線で活躍しているアルパインクライマーの凄さをわずかながら垣間見ることができました。吉田さんがいなければ登れませんでした。感謝。

文章:崎間