八ヶ岳 峰の松目沢・裏同心ルンゼ・大同心雲稜 (2017/12/9-10)

メンバー:崎間(L、記)、杉橋

◆概要

 何度も通っている八ヶ岳で少しチャレンジングな山行をしてみようと、アイスルートの継続とツエルト泊、最後に大同心の登攀を行った。ちょっとしたアクシデントもあったし、継続登攀による疲労の蓄積は想像以上だったけれど、八ヶ岳にどっぷり浸かれた円満具足の山行となった。

◆詳細

(1) 峰の松目沢(12/9 7:30取付→10:30稜線)

 北沢登山道から外れて峰の松目沢を詰め、最初の氷瀑の手前で登攀装備を身に付ける。傾斜の緩い滝が多いので、時間節約のためロープはなるべく出さずに登る。最初の氷瀑は寝ているので簡単。次の滝(F3?)は5m程でやや傾斜が強いものの、階段状なので簡単そうに見える。崎間が先に取付いたのだが、登ると意外に悪く、抜け口の氷が薄いので最後の1mを乗越す踏ん切りがつかない。地上4m地点でスクリューを設置してセルフビレイし、ザックからロープを取出して杉橋さんに確保してもらう。ロープがある安心感を頼りに突破し、上部の灌木でフォロービレイ。一旦ロープを仕舞い、ナメ滝を次々に超えていく。どんどん高度が稼げ、陽当りも良くてとても快適だ。

<▲簡単そうに見えて実は難しかった氷瀑>

<▲ナメの回廊を気持ち良く登る>

 核心のバーチカル滝(F8)の前で休憩。ぼくは先ほどのリードで怖気づいたので杉橋さんにリードして頂く。1泊分の全装担いだ状態でありながら、杉橋さんは安定した登りで突破。スクリュー2本使用。ぼくはフォローで続くが、平爪アイゼンではバーチカルアイスに歯が立たず(言い訳です)足ブラになる。もがいているうちに墜落しその反動で抜けた右のアックスが飛んできてアッズが顔面に直撃、鼻先を切って流血してしまう。鮮血を垂らしながらアックステンションを駆使してやっとのことで抜けました…。

<▲核心のF8>

 続くもう1段と、最後の小滝、計4回ロープを出して峰の松目沢アイスを終了。ルンゼの急登を詰めて稜線で小休止。さて、ここから硫黄岳の分岐までが意外としんどい。ラッセルはさほどではないが、ハイマツが密生した急登に体力を削られる。赤岩の頭まで来ると展望が素晴らしい。氷瀑とハイマツを突破して稜線に抜ける、これが峰の松目沢の醍醐味だ。風が強いので、少し下った所で休憩。12:00。一般道をゆっくり下って赤岳鉱泉にテントを張りビールをプシュっとしたい所だけれど、心を無にして第2ラウンドの裏同心ルンゼへと向かう。

<▲赤岩の頭から硫黄岳方面>

(2) 裏同心ルンゼ(12/9 12:20取付→14:30大同心基部)

 取付までの登りで疲れたのでF1の前で休憩。この時間帯なら人が少ないと思っていたのだが、次から次へと後続パーティーがやってくる。やはり人気ルートは人口密度が高い。既にパンプした感のある前腕でアックスを振ってF1を各々フリーソロで突破。雪で埋まったF2のナメを越え、半分埋まったF3の前で順番待ち。一応ロープを出す。峰の松目沢でのトラウマを払拭すべく崎間リード。多くのクライマーに登られ過ぎて穴が空きまくっているので登りやすい。

<▲裏同心ルンゼF2あたり>

 F4は埋まっており、歩いて抜ける、のだが、足取りが重い。ふくらはぎはもうパンパンに張っているし、一歩足を引き上げる毎に太ももに痛みを感じる。継続登攀とは、かくもしんどいものですね。最後のF5も半分埋まっている。杉橋さんリードで難なく突破。大同心基部のバンドを右上し、雲稜ルートの取付を確認してから大同心稜を下る。

<▲裏同心ルンゼF5>

(3) ツエルト泊(12/9 15:00→12/10 6:30)

 本日最後のイベントは、実は二人とも初めての雪山ツエルト泊。風を凌げる樹林帯まで下り、2人が横になれそうな適地を発見し整地する。雪がサラサラなので全然固まらないが、何となく平らになった所で見切りをつけ、杉橋さんの新品ツエルト(アライテントの2人用)を設営。ストック2本を支点にして、雪面に刺したアックスや灌木から伸ばしたスリング等でテンションを掛けると立派な宿に仕上る。

<▲今晩の宿>

 続いて、新雪を溶かして水づくりに勤しむ。陽が落ちると極寒だが、ツエルトの中にいれば外よりもだいぶ暖かく、薄布1枚の偉大さを知る。夕食はフリーズドライのチキンラーメンぶっこみ飯とポテトサラダ、デザートに豆大福。お互い持って来た少量の蒸留酒で、今日の健闘を乾杯。防寒着を全て着込んで横たわる。

 翌5:00起床、寒くて余り眠れず熟睡感はないが、一晩休んだので体力は回復した気がする。朝食はフリーズドライのぶっこみ飯シリーズ+ミニラーメン。前菜にチョコバー。湯沸しに時間を要し、6:00発の予定が6:30発にずれ込む。

(4) 大同心雲稜(12/10 7:10取付→12:30大同心の頭)

 取付から仰ぎ見る大同心は黒々とそして圧倒的にそびえている。さほど雪が付いていないのが救いだ。ジャンケンでリードの順番を決める。ぼくの勝ち。

<▲大同心基部をトラバース>

<▲雲稜ルート取付き。リングボルトとハンガーボルトの支点>

 1P目(IV、A1)、崎間リード。出だしはプロテクションが少なく緊張する。人工壁の様な岩をグローブ越しにカチ持ちし、結構微妙なバランスで乗越す。そんなときに限ってアブミにアイゼンがひっかかり、ちょっとパニックになる。10mくらい登るとボルトラダー開始。ピカピカのハンガーボルトは間隔が近く快適。小ハングを越すと、リングボルトの終了点に導かれて左にトラバース。すると右上にハンガーボルトの終了点が見えたので、そこまで行ってピッチを切る。

<▲1P目>

<▲1P目(終了点から)>

 2P目(IV、A1)、杉橋さんリード。A1で離陸し、薄被りのガバ地帯をA1とフリーの混在で突破して行く。左にややトラバースした後、やや右よりに登る。全体的に支点少な目で恐ろしい(フォローでも怖かった)。痺れるピッチだ。

<▲雲稜2P目>

<▲振り返ると赤岳と阿弥陀岳>

 3P目(III)、崎間リード。スリングが巻かれたピナクルを目指して登るのだけど、残置支点に惑わされて左に逸れてしまい、杉橋さんのアドバイスによって軌道修正する。ピナクル下部は積雪がそれなりにあり、雪を払いながらガバホールドを探す宝探し的登りとなる。ここも痺れるピッチ。ピナクルの上の岩に埋められたRCCボルト2本でピッチを切る。なお、チャレンジアルパインのトポではここが4P目終了点。

<▲3P目>

 4P目(IV、A0)、杉橋さんリード。凹角をA0で突破する。残置支点は結構豊富だが、上部で支点とホールドが途切れるセクションがあり、草付きにアックスを刺して解決。相変わらず、どのピッチも簡単ではない。

<▲4P目>

 5P目(III)、崎間リード。バンドをトラバース。ほとんど歩き。岩を抱えてクライムダウンする部分が意外と悪くドキドキしながら通過。カンテの裏を回った所に終了点。声は十分届く。

<▲5P目>

 6P目(IV、A1)、杉橋さんリード。1P目、2P目に続く3回目のIV、A1のピッチ。何故かこのピッチだけ非常に風が強く、ロープやアブミは風にたなびき、クライマーもビレイヤーも体温をどんどん奪われて居るだけで消耗する。ハンガーボルトや残置ハーケンが豊富だが、傾斜が強い上に、所々フリークライミングで登らないと行けない部分もあり、切替えが大変そう。中間部でロープが伸びなくなり、悪いのだろうなあと思って心の中で応援する。大同心ルンゼを隔てた小同心クラックには3パーティーくらい取付いており、コールが頻繁に聞こえる。みなさんガンバ。再びロープが動きだし、30mくらい伸びた所で杉橋さんからビレイ解除のコール。フォローで登ると、中間部で支点が途切れる部分があった。全く無いのではなく、ハーケンが3本重ね打ちされているのだが、穴が微妙にずれていてカラビナはおろかソウンスリングも通らない。このハーケンを使わず登るのはさぞかし困難だっただろう。ぼくはフォローの気軽さで、アブミのフィフィを2mmくらい引っかけた状態で無理やり登る。

<▲6P目>

 最終ピッチを抜け、杉橋さんと握手。12:30。大同心の頭に着くと、あれだけ強かった風がここには吹いていない(一種のエアポケットのようなものだろうか)。素晴らしい展望。午後から崩れるという天気予報どおりに、遠く北アルプスの峰々には雲がかかり始めている。

<▲大同心の頭にて>

(5) 下山(12/10 大同心の頭12:45→赤岳山荘P 15:00)

 最終ピッチの終了点から懸垂でバンドまで降りられるようだが、風に煽られてロープがスタックする恐れがある(実際、スタックして残置されたロープが放置されていた)ので、歩きとクライムダウンで大同心ルンゼを下降する。一泊した懐かしの樹林帯でデポ装備を回収し、赤岳鉱泉まで下って大休止しガチャ分け。ノンアルコールビールで乾杯。水分不足の体に炭酸がしみわたる。赤岳山荘で車に乗り、もみの湯とハルピンラーメンに寄って帰阪。

◆感想

 とても密度の高い2日間でした。計画を立てたのは約1ヶ月前で、我ながら良い組合せを考えたなと悦に浸っておりました。しかし出発直前には「この行程をこなせるだろうか?」とプレッシャーを感じ、山行中も疲れすぎてちょっと辛い場面もありました。それでも終わってみれば充足感に満たされ、頑張って行って良かったなと思います。一緒に山行してくれたのみならず、要所々々で的確な助言をくださった杉橋さんに感謝です。

◆備忘録

文章:崎間(2017/12/12)