8/14Dガリー奥壁(敗退) メンバー/椿尾、きなこ、小林

急遽、中嶋さんは池崎さんと4尾根に行くことになったので、椿尾さん、私、きなこちゃんの順につるべで登ることにする。

今日はDガリー大滝ではなく、第5尾根支稜から横断バンドに上がる。

 


「第5尾根支稜2P目」

 

前日、3尾根に行った帰り、中嶋さんと取付きを確認した結果、「正面の草付きスラブを登った先に下部フランケがある」と思い込んでいた。

そのため、自信を持って、正面のスラブをノーロープで一段上がる。

そこで、椿尾さんに「横断バンドから下部フランケに取付くのでは?」と言われ、間違えたらしいと気付く。

戻ることも考えたが、トポによると1P目の終了点に合流出来そうなので、右手に支点を探すが、よく分からない。

(実際の下部フランケはもっと右だった。そもそも登ったところが左過ぎたのだと思う。)

今思えば、この時点で戻れば良かったが、ここからロープを出して、さらに1P登る。

そこで、辻さんの写真にあった5.10のアプローチシューズと支点を発見し、二人もここまで登ったことが分かった。

下部フランケがどこだかは分からないが、おそらく下部フランケは巻いてしまっている。

しかし、Dガリー側からも奥壁に取り付けそうなので、下部フランケは諦めて、このまま登って行くことにする。

中間支点は少ないが、2, 3級程度なので、こんなものだろう。

ピッチを切れる支点はあるので、おそらくこのまま右手に登って行けば、たどり着けるはず。

と、椿尾さんが左に残置のオレンジのシュリンゲを発見し、左にトラバースするのでは?と言う。

右手奥上方にテラスに人影が見えるので、それが4尾根だ。

さらに奥に城塞ハングらしきものが見えるので、私はそちら方向に登って行くつもりだったが、

それは上部フランケに行くのでは?と言われると、下部フランケを見落とした落ち目もあり、みるみる自信が無くなる。

左のルンゼがDガリーでは?と言われると、そんな気がしてくる。

が、左へのトラバースも悪そう。踏み跡も見えない。こんなとこ本当にルートかな?

すると、きなこちゃんがガッツを見せて、「トラバースしてみる」ということなので、そうしてもらう。

行った先に支点は無いようで、岩角で切った。

椿尾さんと、私も続くが、踏み跡はないし、かなり悪い上に、支点は途中に一個しか無かった。

椿尾さんが左のルンゼを見に行くが支点は見えないとのこと。

きなこちゃんのビレイ位置が安定していないので、椿尾さんがハーケンを打って、支点を移動する。

きなこちゃんがビレイしていた辺りの上部もハングになっている。

ハーケンが見えると言うが、ルートなら支点が続いているはず。

また、写真とも違うので、Dガリー奥壁ではない。椿尾さんはもう1P登ってみようと言うが、トラバースも悪かったし、しっかりした支点はないし、ルートに出るとは思えない。

所々ある支点や残置のシュリンゲは敗退用のものに違いない。戻ることを提案する。

 


「振り出しに戻る」

 

この辺りから雨がポツポツ降り出してきた。再びきなこちゃんのリードでトラバースし、私が切った支点に戻る。

この上がDガリー奥壁という核心は無かったが、Aフランケには出られるはず。

Aフランケから4尾根に合流することが出来るので、もう1P、上に登ってみることにして、椿尾さんが登り始める…と、急に雨が強くなってきた。

Dガリー奥壁に取付いたとしても5PAフランケ経由としてもやっぱり5P。頂上まで3, 4時間くらいだろう。

まだ11時くらいだったので、時間は十分だが、午後になるほど悪くなる天気予報だったし、昨日の本降りと昨年の事故が頭をよぎる。

ふと、椿尾さんがこちらを振り返ったので、「下ろう」と提案し、ここから懸垂2回で横断バンドに戻る。

横断バンドに戻った頃、雨も止み、ちょっと空が見えたので、諦めるのが早かったかな、と後悔したが、時すでに遅し。

下部フランケの取付きを探すと、昨日、前のパーティが登っていたところが、トポの写真ともばっちり一致し、下部フランケだと判明する…。よく見たら分かるのに…。

自分の浅はかさがつくづく嫌になったが、間違える時ってこういうものだろう…。

幸か不幸か、雨は降らず、スッキリしない気持ちでテント場に戻った。

 

【間違えた原因・改善点】

   前日、他のパーティが登っていたところをピラミッドフェースのルートと思い込んでしまっていた。その為、その左に下部フランケがあると思っていた。

   左のルンゼを「Dガリー」だと思ってしまった。(実際は4尾根の左一帯をDガリーと呼ぶよう。)

   前日にもっと取付きを確認しておくべきだった。

   横断バンドから登り始める時に、他のメンバーの意見を聞けば良かった。

   横断バンドから1段上がったところで間違いに気付いたのだから、そこで戻れば良かった。

   撤退を決めるのが少し早かった。時間はあったので、もう少し登ってみれば良かった。

結局登らなかったので確証はないが、上部フランケとDガリー奥壁は4尾根の側壁にあるので、最終の支点からもう一段登った先に、取付きがあったと思われる。

 

などなど、後悔はあるが、思ったより雨が降らなかったのは結果論。

逆に、トラバースした先でさらに登ってしまって、大雨に降られたら、なかなかシビアな撤退になったかもしれない。

後悔出来るのも余裕を持って下山したからこそ。

また、「自分がこの壁を登れるかどうか」ではなく、「この壁はトポにあるグレード通りなのか」を見極めることが、

アルパインのルートファインディングには重要なのだと、改めて感じた。(もちろん登れる力があることに越したことはありません。)

山で常にベストの判断をするのは難しいが、「ワースト」の判断をしないことが大事なのだと思う。

今回、事故の検証と取付き間違いのおかげで、バットレスの概念図がすっかり分かった。

「せっかく来たんだから・・・」と、悪条件の中、登るのは事故の元。元気で帰れば、また来れる。次回、天気のいい時にリベンジしたい。

 

以下、他お二人の感想です。

 

@

今回、予定していた下部フランケ及び奥壁への登攀、残念ながらミスにより敗退となってしまった。

登っているときは疑心暗鬼の気持ちで一杯であったが、間違えていてもここからなら懸垂して敗退できるということをピッチごとに確認していたので心配はなかった。

しかし「もうちょっと登ってみよう」「この先進めば何かわかるかもしれない」自然とこういう流れになってしまって遭難する典型的なパターンだったかもしれない。

これ以上進んだら危険、降りようと判断した玉ちゃんは素晴らしいと思う。

 

自分といえば、全く未知の壁を登っている事に興奮していたのが事実で、「残置支点がなくても、カムとナッツと数本のハーケンが有れば何とかなる。」とも。

とは言ってもチームで登っているわけで、一人危険な目にあうのは勝手だが他の人を巻き添えにする事は決してしてはならないので、

話し合った結果、前進する事はやめて下降する事にした。

最後の登攀時は雨が降ってきて正気に戻り、玉ちゃんを見ました・・・。

 

今回、個人的に悪かった点は取り付きにて特に何も考えずに登ってしまった事。

この何も考えずには普段のフリークライミングの練習時にオブザベをしない自分の怠慢から来ているものだと思う。

普段からルートを確認する癖をつけていれば、取り付く前にトポを確認し、話し合いをしていたら間違いに気付けたかもしれない。

フリーとアルパインを混同してしまった危険な行為に反省している。

 

下降後、正しい下部フランケのルートを見ると登攀意欲を沸きたてるルートに見えた。ここには必ず戻ってきてリベンジしたいと思う。

 

最後に、激こわトラバースを私が行きますと言ってくれたきらこちゃんのガッツは忘れないだろう。

 

椿尾

 


A

【登りだして】

落雷が裏庭につんざくような激しい音に振り返ると、取り付きに広くあった雪渓が分断され、割れた一方は背を見せている。様変わりした氷塊が目に入った。

そのクレバスを見つめながら「アルパインの山にきているんだ」と鼓動が高鳴った。

 

下部フランケ〜Dガリー奥壁から山頂に抜けるルートの計画で臨んだが、結果から言えば取り付きミスと悪天により、撤退となった。

 

5尾根支稜を経て“横断バンド”から取り付きを判断する際に、“下部フランケ”と思い取り付いたルートが“Dガリー”であり、

Dガリー”であることを確信できないまま逡巡している最中、悪天になってしまったことが撤退の要であったと思われる。

“横断バンド”まで懸垂下降し、改めて検証した際に状況が明確になった。

 

<横断バンド>

 

雨の危機を押してあと1ピッチ登っていれば“Dガリー奥壁”の取り付きに出ることが出来たのだ、

という結論がチーム内で大きな悔恨を残したが、あくまで結果論であり撤退を決めた決断は悔いを凌ぐものであったと感じている。

この“撤退方法を経験し、その可能性を知る”という事が、今回私にとって大きな収穫になった。

 

【心覚として】

・乏しいと感じた支点にはハーケンで追加支点をつくる (ハーケンを打つ選択肢をこの日まで完全にイメージ出来ていなかった)

・不安に感じる残置スリングは自分のスリングで補強する (「補強が必要」な状況に今回初めて出会った。)

・捨て縄を携帯すること (捨て縄を今まで携帯することがなかった。)

<懸垂下降時に切れそうになった残置スリング>

 

いわゆる本チャンと言われるような山の経験が少ない私からみると、ルートファインディングが非常に難しく、

乏しい支点、貧弱な残置は常に不安を抱かせた。ステンレスボルトでの支点に慣れている私はかなり!動揺してしまった…。

椿尾さんや小林さんとの感覚の違いに驚かされ、自分の経験値の低さを改めて自覚した。

今回自身の行動に猛省したことは、リードで登った先に支点がない時の対策と、その先の判断。

確実に違うルートを登っていると思いつつも、フォローを導き、「降りる」という判断が出来なかった。

特に35m程のトラバースをリードした際、「支点がなければハーケンを打つ」と心に決めていたにも関わらず、

やっと見つけた中間辺りの残置ハーケンに一カ所とったのみで進んでしまった。

着いた先には探しても良い支点が見つからず大きな岩にスリングを巻いてビレイ点を作ったが、終いには足がつりそうに安定していない箇所だった。

結局椿尾さんがハーケンでしっかりとしたビレイ点を作ってくれて安定した場所に戻ることが出来た。

更に大きな岩でとった支点から右上するハング帯の5.10a程ありそうなルートをそのままリードする気で考えていたが、

進んでいたら恐らく厳しい状況になっていただろうことが後に分かり、青ざめた。

小林さんの「トラバースを引き返す」という冷静な判断が転機であったように思う。

 

岩はただでさえフリクションが効きにくく、濡れていれば継続は困難を極める。迷ったであろう残置が多く、

それがまたルートファインディングを混乱させられる。見通しがよければ予測ができた方向性も常にガスに遮られた。

違う道を進み続ければ支点はなくなり、撤退の選択肢が狭まっていき、深みにはまっていく感覚に陥った。

リーダー達の判断で早期に安全を確保出来たが、最悪のケースのイメージが明示的に感じられた。

 

【最後に】

今回、1年前の軌跡を少しでも感じられれば、という気持ちと改めてお2人を悼む想いで夏合宿に参加を決めました。

子供も一緒という事で迷惑をかけることは重々感じつつ、どうしても参加したい想いがありました。

私が登ったルートは結果として撤退に終わりましたが、偶然にも辻さんが撮った写真(片足のアプローチシューズ)の現場を見つけた時には、

二人の足取りを間近に感じることが出来ました。

一体どうして、という当時の想いも、今までの検証と合わせて今回また一歩、彼らの踪跡を深めることが出来た山行であったと感じています。

今回初めての北岳でありましたが、また訪れようと強く思いました。

 

<Dガリー2Pでみつけたアプローチシューズ>

 

 

文章:きなこ(2017.8.17

 

【備忘:バットレス取付きについて】

二俣から30分ほど登ると右手の沢に「ビックボルダー」あり(バットレス沢)。

ここから数分登り、小さな沢(赤いテープを巻いた石、枝あり)を右に越えると「落石注意」の看板がある。

視界があれば先にピラミッドフェースが見える。踏み跡を辿って尾根上を登って行く(所々木登りでけっこう悪い)。

15分ほど登ると、視界が開けて、正面にピラミッドフェースが現れる。

さらに草付きの中の踏み跡を辿ると、ピラミッドフェースの基部へ。

正面の岩に十字クラックが見える。右の白い沢がCガリー、左の沢がDガリー大滝。

Dガリー大滝からも登れるが、そこそこ悪いので、左上するクラック上に横断して、Dガリー大滝左の第5尾根支稜を登るのが良い。

2Pで尾根の上に出て、もう1P、ルンゼの中を登ると、横断バンドに出る。

4尾根に取付くには、横断バンドを辿ってCガリーに出る前に左の踏み跡に進み、岩を数ピッチ登って取付くことも出来るようだが、

中嶋さんによると、一旦Cガリーまで出て、左の岩のキワを登って行き、

「4」と書かれた岩のところで、左手に登って行くほうが分かりやすいとのこと(登った先が取付きテラスになる)。

記録/小林