仙丈ヶ岳 尾勝谷 塩沢左俣 (2017/1/7-8)

メンバー:崎間、椿尾

 「冬の沢登り」と馬目氏が称した塩沢。今シーズンはぜひここへ行ってみようと2ヶ月前から計画書を作りいろいろ戦略を練ってきた。暖冬で氷結が心配だったものの、運良く寒波の後に入渓でき、充実の山行となった。

◆概要

◆詳細

1/7(土) 快晴

 尾勝谷へ渡る橋の手前のスペースに駐車し7時に出発。尾勝谷出合までは歩きやすい林道。出合に大きな建物あり。ここから向かって左の尾勝谷に入る。開けた明るい沢だが何度も渡渉が必要で、苔むした岩で滑ったり、薄い氷を踏み抜いたりして結構大変だ。沢を詰めると徐々に伏流となり水の音がしなくなり、辺りがシンと静まる頃に塩沢二俣に着く。9時。予定通り塩沢左俣に向かって進路を取る。再び水流が現れ、上部にはナメの回廊が見事に凍結している。ここでハーネス、アイゼンを装着。

<▲尾勝谷へ渡る橋>

 F1はあまり発達していなかったので巻いて上に進むと、巨大な氷瀑が現れた。塩沢左俣最大の氷瀑、F2だ。クラゲ状の集合体といった感じで登りにくそうだけど、表面に流水はなくしっかり凍結している。抜け口も大丈夫そうだ。ロープを出し、全装担いで、崎間リード。

<▲F2を眺める>

 下部は一番傾斜が緩そうな左端のラインを取る。15mくらい快適に高度を稼ぐ。途中で残置Vスレッドとスリングがあった。ここでピッチを切ったのだろうか。そこから右上すると、つららの集合体が数m垂直に密集した凹角状パートとなり数手だけだが難しい。無理せずアックスにフィフィを掛け、休み休み登る(今回、塩沢左俣全体でここが核心となった)。凹角状を抜けると階段状となり、50mロープ一杯に伸ばして大木でビレイ。

<▲F2を登る>

 しばらく歩いてF3。下部20mくらい緩傾斜で上部10mが立っている。これもなかなか見栄えがする滝だ。椿尾さんの安定したリードで問題なく突破。参考にした岳人の記事ではF3を抜けた平坦地で幕営とあったが、雪がほとんど無いせいか、岩がごろごろしてて居心地が悪そうだ。まだ14時で時間もあるし、もう少し上まで行ってみる。F4は長いナメ。F5は数mだが垂直に近いのでロープを出した。F5の上に2人用テントがぎりぎり張れそうな地面があり、そこから上はナメが続く模様。ということで無理やりF5上にテントを設営する。15時半。

<▲F3を登る>

 椿尾さんが氷床にアックスで穴を開け、流水を確保。外に出ていても寒さをさほど感じないので、テント外で湯を沸かしフリーズドライの夕食とする。そこら辺のつららをいくつか折ってコップに入れ、持参したウイスキーと焼酎でオンザロックをつくる。月明かりが増すと共に夜は更けていく。

<▲F5上に幕営>

1/8(日) 晴のち曇のち雪

 5:30起床。先月の八ヶ岳よりかなり温かく快適に眠れた。朝食はフリーズドライ。6時半過ぎて明るくなった頃にテントを撤収し、装備を整えて7時出発。F6〜F9を概ねフリーソロで登る(部分的にロープを使用)。昨日より気温が高いせいか、氷に粘り気があり非常に登りやすい。

 左俣最後の氷瀑であるF10下に8時着。椿尾さんリード。ロープスケールで30mくらい。ナイスクライミングで完登。ビレイしていると後続パーティー(ガイドらしき人1名+受講生らしき人1名)がやってきた。思えば入山してから誰とも会わなかった。この方々は今日、塩沢二俣から登ってきたようだ。6時に出発したとしてもここまで2時間だから、すごく早い。ちなみに、塩沢二俣にはどこかの山岳会パーティーが15人も入っているという。鉢合わせなくて良かった。

<▲F10を登る>

<▲F10の右側は上までつながっていない>

<▲F10をフォロー>

 首尾よくF10を越えたので後は稜線に抜けるだけだ。谷は左右に分かれている。向かって右には氷瀑が連なっていたが、痩せているので登るのが怖そう。左のナメ沿いに稜線を目指す。登るにつれて氷は途切れ、ガレたルンゼ状から灌木帯の薮漕ぎとなる。倒木にアックスをフルスイングしながら這い上がると、ついに稜線に達した。握手。10時。なんとなく登山道らしき踏み跡が見えるので、そこを伝って下山すればスーパー林道へ下れるだろう。クライミングギアをザックに仕舞う。

<▲稜線へのナメ>

 大休止して水分や行動食を採り、景色を眺める。椿尾さんが以前登ったことがあるという鋸岳について、解説してもらった。しかしこの尾根からは鋸岳が本当に良く見える…、あれ?おかしいな。下ろうとしている丹渓新道は北に延びる尾根沿いだから、鋸岳が見えるとしたら尾根が伸びる方向のはず。だが今は尾根が伸びる方向と垂直な方向に鋸岳が見えている。地形図とコンパスで現在地を確認すると、今いる尾根は丹渓新道のある尾根から下った所の支尾根であり、どうやらぼくらは狙いよりもだいぶ西側に抜けてしまったようだ。何も考えずにこの支尾根を下っていたらビバークする羽目になっていたかもしれない。

 気を取り直して、丹渓新道を目指し尾根沿いに登る。「踏み跡があるように」見えたがそれはは思い込み以外の何物でもなく、すぐに消えてしまった。小一時間登ると灌木にピンクのテープを発見。このテープは尾根の東面沿いに10m間隔くらいで付いており、丹渓新道に合流できたと確信し、胸をなでおろす。

<▲丹渓新道に合流>

 くるぶしあたりまでの積雪がある急坂を快調に下り、30分程でスーパー林道に合流。もう安全圏だ。林道から見えるのは鋸岳と甲斐駒ヶ岳。谷に目を凝らすとそこかしこに氷瀑が懸かっている。登れそうな滝を探しながら歩いていたので最初は物珍しくて面白かったものの、3時間近くも林道を歩き、おまけに雪まで降り出したので疲れてきた。

<▲スーパー林道を歩く>

<▲スーパー林道から甲斐駒ケ岳>

 戸台大橋まであと少しという所で、ちょっとでもショートカットしようと林道から登山道へ進入した。ところが、踏み跡が不明瞭ですぐに道を見失ってしまう。道なき道をトラバースして斜面を下ると眼下に戸台大橋が目視でき、そこを目指して急斜面を下ったら崖(切通し)の上に出てしまった。発達中の南岸低気圧の影響で天気は崩れ、重たい雪が本降りになっている。巻道を探すのも大変だしトラバースも結構危険なので、灌木を使って切通しの上から下へ懸垂下降する。50mロープダブルで1ピッチ。地上まであと数mという所でロープが絡まってしばらく動けなくなり、トニー・クルツに思いを馳せてしまった。戸台大橋横の切通しは、ぼくにとってのアイガー北壁であったか。

<▲戸台大橋めざして懸垂下降…>

 戸台大橋を渡ると屋根の着いたバス停があるので荷物をデポ。尾勝谷入口の駐車スペースへ空身で歩いて車を回収し、ようやく落着いた。仙流荘の日帰り湯で冷えた身体を温め、駒ヶ岳SAでソースかつ丼を食べて関西へ戻る。ところが、この日の雪で中央道飯田ICから中津川ICまでが通行止めとなり、下道を走らざるを得なくなる。スピードは出せず、峠道のヘアピンカーブで期せずしてドリフトなどしてしまい時間を食い、日付が変わる頃の帰宅となった。

<▲活躍した地形図とコンパス>

備忘録

文章:崎間