鋸岳・甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳

期間 2018年12月28〜31日
メンバー 崎間
カテゴリ アルパイン積雪期
ルート 鋸岳・甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳
行程
  • 12/28(金) 7:40 戸台 → 9:30 角兵衛沢出合 → 11:40 大岩 → 13:20 角兵衛沢コル下(C1)
  • 12/29(土) 7:15 C1 → 8:30 第一高点 → 11:30 第二高点 → 12:00 中ノ川乗越 → 15:30 六合目石室(C2)
  • 12/30(日) 7:30 C2 → 9:50 甲斐駒ヶ岳 → 10:40 駒津峰 → 11:30 仙水峠 → 12:30 北沢峠 → 14:30 仙丈ヶ岳4合目(C3)
  • 12/31(月) 5:30 C3 → 6:50 小仙丈ヶ岳 → 8:00 仙丈ヶ岳 → 8:30 仙丈小屋 → 10:20 馬の背 → 14:20 丹渓新道・スーパー林道分岐 → 17:10 戸台

詳細

1日目:角兵衛沢

中央道のPAで途中仮眠し、戸台に7時過ぎに到着。駐車場の端に県警の出張所みたいなのができており、署員の方に計画書のチェックを受け「単独ですかあ。トレースないと思うので迷ったら引き返して下さい。鋸岳の第一と第二高点の間は毎年何かあるので」と言われ緊張感が高まる。戸台川の河原は右岸をひたすら歩くとほぼ渡渉なしで済んだ。

角兵衛沢の下部は樹林帯で雪が全然ない。テープの目印や踏み跡をたどって高度を上げていく。このまま雪がなければ水が足りないなと不安に思っていると、大岩の辺りから雪が出てきて安心する。このあたりでアイゼン装着。ガレ場は歩きづらいのでなるべく樹林帯をたどる。天気予報どおり稜線は強烈な風が吹いている。樹林帯が途切れる2450mあたりに風が防げる平坦地を発見したので少し早いが幕とする。13:20。気温は-20℃。

テントを張り水をつくる。岩に貼り付いたベルグラ状の雪が手に入ったので効率が良い。軽量化と体調管理のためお酒は持ってこなかったし、1人なのですることがない。シュラフにくるまり寒さを凌いでKindleで読書。夜は1時間おきに目が覚める。明日のルートが不安になり、23時頃にコピーしておいたトポを読み返し暗記しておく。

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<▲河原歩きからスタート>

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<▲角兵衛沢2200m付近に見つけた氷柱。未登?>

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<▲強風を避けられる地形にテントを張りました>

2日目:鋸岳

5:00起床。稜線から強風の音。天気は曇り。いよいよ今日は鋸岳だ。迷わず行けるだろうか。朝食と水づくりを終え、夜が明け切るまで待機し、7:15に意を決して出発。樹林帯を出ると強風に煽られる。角兵衛沢まで40分ほど登り、第一高点までは稜線をたどる。戸台川側から猛烈の風が吹いているものの、少し稜線の影になれば直撃を免れる。

ガスで展望のない第一高点を過ぎると小ギャップの鎖場が見える。10mないくらいだが垂直に見えるし鎖は凍っており持ちにくいのでロープを出して懸垂下降する。小ギャップからの登り返しも鎖場。平面的な岩に薄く雪が乗っているのでアイゼンで登るのがなかなかに悪い。鎖にアックスをフッキングしつつ登る。さらに、鹿窓までのトラバースはスカスカの雪の下に例の平面的な岩が隠れていて悪い。この山行中で最も悪い部分だったと思う。

懸案の大ギャップは、残置スリングが盛大に巻かれた灌木をすんなり発見できたものの、なぜか2回の懸垂が必要で、降り着いた先はギャップ部からかなり下ったルンゼの下。ラッセルしてルンゼを登り返すと、これでもうロープを出す必要もないなと安堵する。第二高点へルンゼを登ろうとしたが行き詰まってクライムダウン。正解は戸台川側へ大きくトラバースしての登り返し。剣が突き刺さったピークに出るがやっぱり展望はない。

大きく下って中ノ川乗越へ抜けると12:00。ここから先、危険な部分はないものの、強烈な登り返し、微妙なルートファインディングとラッセルに時間を要し、テン場の六合目石室に付いたのは3時間半後だった。六合目石室は板の間があり、風が完全に防げて快適。心なしか昨日よりも暖かい。石室は貸切。今日は誰にも会わなかった。水づくりと夕食といういつものルーチンをこなし、17時半にはすることがなくなりシュラフに包まる。今日も寒く熟睡はできない。20時過ぎにトイレに起きて快晴の星空と伊那の街灯りをみる。

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<▲懸垂下降した小ギャップ>

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<▲鹿窓>

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<▲第二高点>

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<▲六合目石室>

3日目:甲斐駒ヶ岳

相変わらず風が強く出発を躊躇してしまう。7:30に石室を発つ。甲斐駒ヶ岳への登りは遮るものが乏しく猛烈な風の直撃を受けて何度もよろけ、その度にアイゼンがゲイターに突き刺さる。温度計は-24℃を指している。こんなに低い表示は初めてだ。凍てついた大気が風速20m/s超で吹付けてくる。動きを止めるとたちまち凍えてしまいそうだ。

9:50、甲斐駒ヶ岳に到着。やっぱりガスに巻かれて展望なし。山頂で丸2日降りに人類と出会うが寒さで口が動かず会釈のみで挨拶する。ここからは踏み固められたトレースがあり、大いに助けられる。だがやはり寒風が吹きすさび体温を奪われる。顔面の露出した部分が軽い凍傷になっていることを感じつつ素速く下る。駒津峰の手前で冬毛の雷鳥に出会う。丸々していて美味しそうだ。仙水小屋の所で水が出ていたのでテルモスの水を一新しておく。雪臭いお湯とおさらば。

北沢峠のテン場に12:30着。まだ時間があるし、明日の下りでトレースがなければ予想以上に時間がかかってしまいそうなので、今日のうちに少しでも高度を上げることにする。樹林帯の中なら風もないだろう。だいぶ疲れが溜まってきていたので仙丈ヶ岳までの登りをボチボチ歩く。四合目の標識の所で幕。テント内は昨日までよりだいぶ暖かい。ガスにも余裕があるので、手袋や靴下を入念に乾かす。明日は下山だ。

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<▲夜明け前の月と仙丈ヶ岳>

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<▲甲斐駒ヶ岳へ向かう稜線。これはニセピーク>

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<▲雷鳥と北岳>

4日目:仙丈ヶ岳

4:00起床、5:30発。よく踏み固められたトレースをたどって黙々と歩くと夜が白み始める。小仙丈ヶ岳で御来光を拝む。4日目にして待望のお天気に恵まれ、朝焼けの仙丈ヶ岳が見事だ(カメラが凍っていたので残念ながら写真なし)。

8:00、ついに仙丈ヶ岳に到着。これで目標の3山を登頂したことになる。4日かけてここまで辿った長い道のりを思うと感無量である。気温-15℃。しばし大パノラマを楽しむ。

下山は仙丈小屋を経て丹渓新道というどちらかと言えばマイナーなルートを辿る。心配していたとおりトレースは無い。表面が微妙に硬い雪ではあるが片足に体重を掛けると下に着き抜けて太ももまではまってしまいとても疲れる。四つ這いになったらドツボにはまりにくいことを発見し積極的に活用する。馬の背を抜けて斜面をトラバースする段になると、今度は膝下ラッセルが延々続く。1時間経っても2時間経っても、誰も代わってはくれない。1人で頑張るしかない。悪態をつきたくなるけど、ふと立ち止まると無風快晴で鋸岳・甲斐駒ヶ岳の展望が素晴らしい。五体満足で雪山に入れるのは幸せなことだなと思う。

丹渓新道を水平距離で4/5程進んだ辺りで登りの単独行者とすれ違う。「まさかトレースがあるとは思いませんでした」と先方。僕も下りのトレースが明瞭になり有り難い。登山道を示す赤テープが木に着いてはいるものの、これらは「点」の情報だ。トレースという「線」の情報があればルートファインディングの労力(と楽しみ)が大幅に少なくなる。

スーパー林道に合流してほっと一安心。だらだら続く長い舗装路を凍える体で下り、17:10、日暮れとともに戸台に到着。疲れ果てたゆえの充実感。仙流荘の日帰り湯で暖まり、つま先の痺れを感じながら今年最後の山行を終える。

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<▲2018年最後の夜明け>

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<▲小仙丈ヶ岳から仙丈ヶ岳>

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<▲仙丈ヶ岳からの下り。手前に馬ノ背、中間に鋸岳と甲斐駒ヶ岳、奥に八ヶ岳>

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<▲丹渓新道で振返り、仙丈ヶ岳と自分のトレースを見る>

備忘録

文章:崎間