8/16(木)ヘルンリ小屋まで・・・
6時起床。
今日はヘルンリ小屋までなので、9時頃のロープウェイに乗って、昼頃着けばよしということで、朝食後、装備の確認などをしていると、雨が降ってきた。
雨の予報ではなかったはず、と心配になり、ツーリストセンターとガイド協会で天気の確認。
ガイド協会の人が自信満々で、「午後には晴れる。山で雪が降ったとしても、すぐに溶ける程度で問題ない。
今もたくさんの人が登っている」というので、予定通り、ヘルンリ小屋に入ることにする。
9時半頃、ロープウェイ駅。雨足は強くなる一方。切符売り場の人にシュバルツゼーの天気を聞くと、やはり上も雨とのこと。
こっちの天気予報は当たると聞いていたのに、予報と違う雨にとまどうが、「午後は晴れる」の言葉を信じて、シュバルツゼーまで上がる。
が、シュバルツゼーまで上がるも、人は居ないし、雨は変わらず降っており、気持ちも萎えるが、雨雲はそれほど厚くないので、とにかくヘルンリ小屋まで行くことに。
小屋までは、約2時間半の登り。
途中、下ってくる人たちとすれ違う。ロープ、ヘルメットを持っているパーティを狙って、聞いてみると、上はそれほど悪天候ではなかったらしい。
霧雨の中、12時20分、小屋に到着。着く頃には雨もほとんど止み、周辺の岩も乾いている!
チェックインは15時とのことなので、不要な荷物は小屋に残して、13時頃から下見に行く。取り付きは小屋の裏手。プレートと固定ロープがあるので、分かりやすい。
下ってきた人と話をすると、天気はそれほど悪くなかったが、道に迷って、あと1ピッチくらいのところで引き返してきたとのこと。
やっぱりポイントはルートファインディングか・・・。
ひとまずロープを結び、最初の固定ロープはスタカットで。これを越えると、踏み跡がしっかりしたザレ場に出る。
ここら辺りはペンキの印やケルンもあり、分かりやすい。北アルプスの一般道くらいで、ロープの必要はない。ひとまずコンテで行く。
ルートは稜線上に続く小さなピークを若干左に巻いていくよう。
2時間ほど登ったところ、黄色いボックスのあるピークの手前に出る。
このピークの越え方に迷っていると、左の悪いザレ場を、何組かが下ってくる。このザレ場を登って、ピークを巻くのが正解らしい。
同じく下見に来たポーランド隊とスペイン隊がそのザレ場を登っていくのを確認し、我々はここで下見を終了、15:40頃、小屋に戻り、チェックインする。
夕食・朝食付きでCHF80。パスポートを提出するよう言われ、そのまま没収される・・・。
夕食は19時とのことなので、明日の準備を済ませて、二人でビール(ハイネケン)を半分こする。ちなみに500mlでCHF7.00(なんと水も同じ価格)。
この頃には、雲も切れて、晴れ間が。
ヘルンリ稜を見ながら、外でビールを飲む。ビール半分で19時まで持たないので、少し昼寝。
19時になったので、1階の食堂へ。
好きな席に勝手に座って、チェックインのときにもらった半券を渡すと料理を運んでくれるシステムらしい。
ちょうど同じ部屋のおじさん二人組の席が空いていたので、そこに同席させてもらう。日本のようにお茶・お水は出してくれないので、自分で持参するか購入する。
19時過ぎに、まずはスープが運ばれてくる。それが済むと、メイン。ミートローフふた切れに、付け合せのニンジン・大根(カブ?)のグラッセ、マッシュポテト山盛り!という内容。
マッシュポテトの山盛りぶりにおののくが、味は美味しい。でもさすがに全部食べ切れなかった・・・。
同席のおじさん、私がスープを飲めば笑い、私が料理の写真を撮れば笑い、何かするたびにそれを見て笑ってる・・・。そんなに東洋人がスープ飲むのが面白いですか??
何か話しかけられるが、まるで分からない。たどたどしい英語だが、どうやらイタリア人らしいことは分かった。
確かに東洋人は私たちの他に3人、女の子はいないし、女の子だけのパーティも居ない。相当、珍しかったんだろうか・・・。
最後にデザート(キャラメルペーストみたいなもの)が出て夕食終了。
朝食は4時からで、食堂に「4時半までは出発しないこと」とあったので、これを鵜呑みにして、4時半頃出発ということで20時半頃、就寝・・・が、全く眠れない!!
部屋は2段ベッド。日本と同じくそこに布団・・・ではなくマットレスがひき詰められ、掛け布団が置いてある。
指定された番号のところで眠る。21時頃には全員が部屋に入ったようだが、心拍数は早いし、ほとんど眠れない。
気付けば、涼さん側でなく、さっきの私を見て笑ってたおじさんにぴったり寄り添ってた・・・。
8/17(金)ついにマッターホルンにアタック!!
そんなこんなで、3時半を迎える・・・。
同部屋の人もみんな出て行き、我々も食堂へ。
その前に外に出てみると、星も出て天気良さそう。気温も高く、手袋不要なくらい。
食堂の机にはティーバッグやインスタントコーヒー、チーズにジャム、バターが用意されており、4時頃になると、パンやお湯を運んできてくれた。
簡単に朝食を済ませ、4時半近くなると、ガイドとクライアントがロープを結び合い、小屋の中も緊迫感が増す。
4時半過ぎ、ビリに近い状態で我々も出発。
昨日の下見から、悪いザレ場まではノーロープで行く。
暗いため、一箇所間違えたところもあったが、前日下見したところまで順調に到達(といっても、すっかりガイド連中には抜かされ、完全ビリ)。
この頃には少しずつ空もしらみ始める。ここからロープを結ぶ。この悪いザレ場以降、ロープはつなぎっぱなし。
ノーロープで行ける気もしたが、悪い岩場が出るたびにロープを出し入れすることに時間を取られたくないのと、慣れないコンテでの岩登りは危ないと判断し、肩がらみなどの簡単なビレーをしながらのスタカットで登っていく(今思うと、これが敗因の一つ)。
前情報からとにかく道に迷わないことを気を付ける。
固定ロープのある小さなピークを乗り越えた辺りで、単独のお兄さんに抜かされる。
と、ここを越えた辺りで急に道が分からなくなる。
ちょうど大キレットの飛騨泣きを北穂に向かって登っているような、大きな岩が転がる広い斜面。
どこでも登れそうだが、それで登ってしまうと次に行き詰る、と聞いていたので、慎重に道を探すが見つからない。
正規のルートは皆が触っているので、岩がツルツルと聞いていた。これまでは、確かにそうだったし、固定ロープがあったので、間違っていないはず。
急に単独のお兄さんの姿が消えたので、ますます不安になるが、結局、どこが正解か分からないまま、岩を乗り越えていく。
下の方に踏み跡が見えたように思い、下気味に巻いていくが、やはり自信が持てないまま進んでいく。ソルベイ小屋は遥か遠い。
当初の予定では12時をリミットとして、引き返すことにしていたが、この時点で7時くらい。
ガイド登山では、2〜3時間でソルベイ小屋、そこから2〜3時間で頂上、そして登りと同じくらいの時間をかけて下山(つまり、全部で8〜12時間)、というのがコースタイム。
この調子では、12時に頂上は不可能。今日中に下山は諦め、ソルベイ小屋でのビバークする予定に変更する。
それでも、下りに時間がかかることを考えると、暗くなり始める19時半にソルベイ小屋に着くには、14時がタイムリミット。
登頂の可能性は低い・・・。遠くに見える頂上は近いようで、なかなか近付かない。
どうしてこうも近付かないのかと、切なくなる。
気持は焦るが、ちょっと悪いところでは、涼さんが「ゆっくりでいいから」と励ましてくれる。
良きパートナーに恵まれ、ガイドとではなく、自分たちで考えながらマッターホルンに登っているという恵まれた環境を実感する。
と同時に、このままでは登頂の可能性が低いことを感じ、感動の涙だか悔し涙だかよく分からないが、涙がボロボロ出てくる・・・。
が、ここで泣いている場合じゃない!14時までに何とか頂上まで行くのだ!!と、涼さんに気付かれないよう涙を拭う。
そんな中、早くも下ってくる人たちが「もう少し、上だ」(つまり進行方向右上、稜線に近いところ)と教えてくれる。
よく分からぬまま、右上気味に登っていくと、ソルベイ小屋の下部にある「モズレイスラブ」のワイヤーと支点が見えた。
結局、正解が分からぬまま、正規ルートに戻った。
10時半頃、ソルベイ小屋着。
約6時間も掛かってしまった。不要な食料などをここにデポし、早々に上をめざす。
ここら辺りから、下りとのすれ違いで時間を取られるようになるが、支点があるので道は分かりやすい。
雪もちょこちょこ出てくるが、おそらく雪は少ないほうで、岩がほとんどなので、アイゼンは付けずに登っていく。
上から「チャオ!」と声がするので、顔を上げると、部屋が同じだったイタリア人2人組みだ!!
そのときセカンドで登っていた私のロープを上からぐいぐい引っ張ってくれる。
こうなると、自分でホールド・スタンスを探す余裕はなく、ほとんど引っ張りあげられている状態。
ガイド登山はこんなんなんだろうか・・・、こりゃ早いわ・・・(はい、負け惜しみです)。
「2hours!(頂上まではあと2時間!の意)」と陽気に声を掛けてくれるが、私たちのスピードではねえ。。。また、涙が出そうになる・・・。
しばらく行くと雪の箇所が増えてきたので、アイゼンを付ける。
4000mも越え、疲れも出てくるし、お互い息づかいが荒くなり、これまでずっとツルベで登ってきたが、それもキツくなってくる。
そのとき元気な方がトップで登っていく。
ナイフリッジを越え、固定ロープの連続する北壁側の斜面に出る。
この辺りで14時手前。
ゴボウだろうが何だろうが、上に行くのみ!と自分を奮い立たせるが、北壁側の日陰に入り急に寒くなり、足元も氷の斜面、下りとのすれ違いで時間も取られ、みるみる気持ちが弱くなっていく。
時計は14時10分。
私の高度計は4295mを示していた(頂上は4478m)。
ここから先はほぼ垂直の固定ロープを登り、急な雪の斜面を登って頂上。近いようで、ここからがしんどいはず。
涼さんと相談。
お互いの疲れ具合と高度を考えるとスピードは出せない。下手すると、ソルベイ小屋まで明るいうちに帰るのも厳しくなる。
安全第一を考え、後ろ髪を引かれつつも、ここで敗退を決める・・・。
懸垂で下降開始。
途中、イタリア人の3人パーティに追いつく。
彼らはイタリア側のリオン稜を登ってきて、ヘルンリ稜を下るらしい。
(ヘルンリ稜より難易度が高いとされる)リオン稜を登ってきたという割には、懸垂下降に時間が掛かり、若干イライラする。
なるべく支点が被らないように、クライムダウンも交えつつ下っていく。
途中で、違うイタリア人2人組(若者&おじさん)に出会う。
おじさんもヘロヘロで下っている。
ヨタヨタとクライムダウンする私に共感を覚えたのか、私が自力で降りると、「グッジョブ!」的な感じで、グーサインをしてくる・・・。
はいはい、気持ちは有難いけど、お互いとっとと下りましょう・・・。
というのもつかの間、私たちが懸垂待ちしている間に、若者&おじさん組はいつの間にか、みるみる下っていった・・・。
近いようでなかなかソルベイ小屋の姿は見えない。
イタリア隊にも「ソルベイ小屋、過ぎたんではないか?」と聞かれるが、「それは絶対無い」と答え、ほぼ同ペースで下っていく。
何とか、19時過ぎ、ソルベイ小屋到着。
イタリア人パーティは、さらに数人遅れてくるらしい。今日のソルベイ小屋は満室だ。
彼らは雪を溶かして、インスタントラーメン?的なものを作ったりしていたが、私たちは早々に2段ベッドの一段目の端っこを陣取り、シュラフカバー、備え付けの毛布にくるまり、すっかりビバーク体勢。
途中、彼らの仲間たちなどが到着したようだが、我々は昨年眠れなかったこともあり、かなり熟睡。
人数が多いおかげで寒くなかった。
文章/小林